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2020年3月27日金曜日

コロナ経済危機に対する実物経済面での経済対策メモ

コロナ経済危機に対する実物経済面での経済対策メモ。金融危機回避策はまた別。随時改訂。講義でも話すこと。

 この危機に立ち向かう上では,1)緊急に必要な,数日から数か月程度で実行されるべき政策と,2)景気を浮揚させるもう少し長いスパンの政策を区別する必要がある。

 1)の緊急対策の目的は,生活と営業を守り,雇用を守ることに尽きる。「需要」の規模は重要だが,必ず生活,営業,雇用に沿って行わねばならない。無関係なところでは,むやみに需要を刺激すべきでない。また,緊急対策はコロナウイルス感染症の流行下で行われる。感染症対策を妨げず促進すること,感染症への国民の不安を和らげることも需要な条件となる。

 2)では総需要と総供給の関係が問題になる。需要不足を防ぐと同時に,供給制約が現れてくることに注意しなければならない。

 ここでは1)についてコメントする。

 1)緊急に必要なのは,a)「企業の資金ショートの防止」,b)「家計の所得低下の防止」とc)「失業の防止」,d)「失業の救済」とe)「低所得者の生活維持」である。「企業の売上支援」は,1)の段階では目的にすべきではなく,b)c)d)e)の結果として実現するようにすべきだ。

 規模的に大盤振る舞いすべきであるが,抽象的に「需要増のための総額」を大盤振る舞いするだけでは不十分だ。b)c)d)e)によって,国民・住民の不安を緩和することができる。

・a)c)のため,流動性は無制限供給しなければならない。無担保・無保証・無利子融資を拡大する。後でゾンビ企業化するという懸念は,1)の段階で考えることではない。

・b)とe)のためには,現金給付も効果はある。やるなら10万円以上の規模で行うべきである。ただし,一時金をもらったところで,失業したり,今後数年間所得が低下するかもないという時には,不安は払しょくできない。何より失業しないことが肝心だ。b)にはもっと強力な対策が必要であり,さらにc)d)も必要だ。失業防止というマクロ経済政策の基本視点を忘れ,現金を配れば万能であるかのように語ることは適切でない。なお,貯蓄に回ることを防止するために商品券にすべきだという議論があるが,意味がない。貯蓄できる家計は,商品券を用いた分だけ現金を貯蓄に回すだろうからだ。また,国民の不安緩和という目的に対しては,現金と商品券では効果は段違いである。

・b)e)のために公共料金の緊急減免も効果がある。

・b)のためには,学校休校の影響で休業する人だけでなく,風邪程度の症状で休むすべての人と,そうした家族・同居人を看護するすべての人のための実質有給休暇の保障が必要だ。ただ,中小企業の経済的苦境にも配慮しなければならない。政府機関や独法には風邪症状で休める有給休暇を直ちに導入する(すでにかなり実施されているのはよい)。企業には,一時措置として同様の有給休暇を義務づけた上で,その負担は政府が全面的に企業を補填するそちをとる。あるいは無給休暇を義務づけた上で,事後的に労働者に減収分を全額給付する。いずれも技術的には企業の休暇記録と賃金台帳で簡単にできる。上記の実効性を確保するとともに,感染症対策に寄与するため,風邪症状のある労働者を出勤させることは労働契約法上の安全配慮義務違反であることを明示する。

・b) では個人事業主・フリーランスの所得補償も必要になる。水準の算定は要検討だが,課税証明から前年並みとするか,業種ごとに相場を決めるか,より一律の金額にするなどがありうる。

・b)e)のため,生活保護要件の緊急緩和と審査の迅速化を行う。中長期のモラル・ハザードを気にしている場合ではない。

・c)のため,雇用調整給付金の支給要件緩和をしているのは,緊急措置としては適切だ。長い目で見ると日本的雇用慣行の歪みを維持してしまう効果を持つが,この際,やむを得ない。

・d)失業給付の拡充が必要。モラル・ハザードを気にしている状況ではない。失業給付を拡充すると雇用主が安易に解雇しないかという疑問がありうるが,危機の時は問題にならない。失業給付の水準など考慮する余裕もなく解雇したり,倒産したりするからだ。

・b)e)を補強するため,法技術的に緊急に可能ならば消費税の一時減税が望ましい。緊急に軽減税率を全財・サービスに適用して5%とする。また,所得税についても,中低所得層を減税するか,マイナスの税額控除を導入して低所得層を支援することが考えられる。ただし,時間が不可避的にかかる措置は2)にまわす。

・a)について,イベント自粛や飲食需要停滞による損失に対しては一時金で支援する。1)の段階では,まちがっても,外食や旅行を促す商品券など配布してはならないし,高速道路を無料になどしてはならない(生活必需品を輸送する業者にはしてもよい)。それは密閉,密集,密接会話を避けよという感染症対策に正面から反する破滅的政策だ。2)の段階で検討すればよい。

・a)d)について,企業の売り上げと雇用をつくりだす需要刺激は,感染症対策と整合するように選別的に行うべきであり,感染症対策,医療体制の強化,病院以外の療養施設の緊急整備,国民の自宅療養支援(生活支援物資調達と宅配手配),テレワーク・遠隔授業の財政支援,宅配業者での雇用促進などがある。公共事業全般を拡大することは,1)の段階では適切でなく,内容によっては感染症対策に逆行する。

・中長期的に2)の段階では,サプライ・チェーンも傷んでいる現状ゆえに,景気対策の方法を誤るとボトルネックが発生してインフレが生じる恐れがある。しかし,これは2)の課題であるし,1)の国民生活防衛のところでは短期的には問題にならない。現時点では,国民の生活必需品の需要が延びてもすぐに物価が上昇する恐れは小さいし,多少上昇しても国民生活防衛のための給付をためらうべきでない。

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