フォロワー

2020年3月26日木曜日

文科省は授業全体のネット化を妨害し,パンデミック下でも面接授業を義務づけるつもりか

 ようやく出た,大学の授業の開始に関する文部科学省の方針。おおむね常識的なことが書いてあるが,一つ重大な問題がある。新型コロナウイルスのパンデミック下でも,授業全体をネット化(遠隔授業化)することはまかりならないと読める内容を含んでいるのだ。

 授業に関する主な内容は以下の通り。
1)単位制度による10週または15週(セメスター)の期間については,学習内容を確保できるならば弾力的に取り扱ってよい。シラバスも変更してよいが,学生に丁寧に説明すること<通知2(1)>。
2)遠隔授業の試験は柔軟な形態で行ってよい<通知2
(2)>。
3)4月から大学に来られない留学生を,4月に入学したものとみなすことは差し支えない<通知2(4)>。
4)遠隔授業の例
・オンラインリアルタイム双方向方式。
・教材をネット上に準備し,学生が視聴するeラーニング方式。過大提出や質問受付もネットで行う。MOOCを使ってもよい<通知3(1)>。
5)元来,遠隔授業で習得できる単位数には60単位という制限があるが,「面接授業の一部を遠隔授業によって実施する場合であって,授業全体の実施方法として,主として面接授業を実施するものであり,面接授業により得られる教育効果を有すると各大学等の判断において認められるものについては,上記上限の算定に含める必要はない」。「主として面接授業により修得した単位として扱い,上記上限の算定に含めない場合には,学則において当該事項を定める必要はない」<通知3(2)>。
6)専ら通信教育を受けることは在留資格「留学」に応じた活動とは認められないが,「今般の新型コロナウイルス感染症の対策として,学校運営上の対策を講じる目的などの観点から,必要な範囲内において,遠隔授業を実施することは,在留資格「留学」に応じた活動として認められる場合がある」(通知3(4))。
7)授業料の減免について柔軟に対処せよ<通知4(1)>。

 1,2,3,4,7は問題ない。

 5が引っ掛かる。授業が「主として面接授業」でなくなった場合,例えば1回から終回まで遠隔授業とした場合には,「遠隔授業の単位」として学則に明記し,その単位数は上限の範囲内に納めなければならないとも読める。それでは,いくつかの大学が行っているように4月からの通常の授業(面接授業で会った授業)全体を遠隔授業とすることも,上記2条件をクリアーしない限り認められないという話になりかねない。パンデミック下でも遠隔授業は60単位限度だというのだ。
 6の「認められる場合がある」も問題だ。文科省のさじ加減一つで認められない場合もあると読める。授業が主に遠隔授業となった場合,留学生の在留資格「留学」が取り消されることもありうるかのようだ。

 いずれも馬鹿げている。新型コロナウイルス危機下に限ってでよいから,緊急に,より柔軟な対応を定めるべきだ。私個人は,密閉,密集,密接会話を回避することを前提に,できるだけリアル授業をやりたいと思っているが(例:3分の1ずつリアル講義出席。3回に2回はネット配信で受講。普段の3倍,学生と学生の距離をあける),感染流行の状況によっては学部全体の100%遠隔授業もやむを得ないと思う。それを認めないかのような通知を送って来ないでほしい。この緊急時に大事なことは現場において教育を続行できるようにすることであって,現場の手足を縛ることではない。

文部科学省「令和2年度における大学等の授業の開始等について(通知)」2020年3月24日。
メニューページ(学校に関する情報)
https://www.mext.go.jp/a_menu/coronavirus/index.html
直リンク
https://www.mext.go.jp/content/20200324-mxt_kouhou01-000004520_4.pdf

※4/2追記。4月1日に以下の新しい通知が出て,やや改善された。「一方,新型コロナウイルス感染症に対する対応の影響により,こうしたケースが積み重なることで,60単位の上限に達してしまう事態が生じることも想定されることから,今後,文部科学省において,各大学等における遠隔授業に係る実施状況や各大学等からの要望等も踏まえつつ,必要がある場合には,今回の新型コロナウイルス感染症対策としての遠隔授業に係る単位数の上限の見直しについて所要の検討を行うことも視野に入れてまいります」とある。しかし,「行うことも視野に入れてまいります」などと書いている場合なのでしょうか。行なっていただかねばならない。

文部科学省「学事日程等の取扱い及び遠隔授業の活用に係るQ&A等の送付について」2020年4月1日。
メニューページ
https://www.mext.go.jp/a_menu/coronavirus/index.html#coronavirus001
直リンク
https://www.mext.go.jp/content/20200401-mxt_kouhou01-000004520_6.pdf

1 件のコメント:

  1. 本件は4月1日の通知,5月1日の通知でようやく改善され,「大学設置基準第 25 条第1項は,主に教室等において対面で授業を行うことを想定していますが,今回の特例的な措置として,面接授業に相当する教育効果を有すると大学等が認めるものについては,面接授業に限らず,自宅における遠隔授業や,授業中に課すものに相当する課題研究等(以下「遠隔授業等」という。)を行うなど,弾力的な運用を行うことも認められます」となりました。

    返信削除

大藪龍介『検証 日本の社会主義思想・運動1』社会評論社,2024年を読んで

 大藪龍介『検証 日本の社会主義思想・運動1』社会評論社,2024年。構成は「Ⅰ 山川イズム 日本におけるマルクス主義創成の苦闘」「Ⅱ 向坂逸郎の理論と実践 その功罪」である。  本書は失礼ながら完成度が高い本とは言いにくい。出版社の校閲機能が弱いのであろうが,校正ミス,とくに脱...