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2020年3月6日金曜日

「多数のPCR検査がなされていないから,感染者が本当は何人いるかわからない」ことについて

「多数のPCR検査がなされていないから,感染者が本当は何人いるかわからない」ことについて。実はここ数日,複数の学生からこのような話を聞いている。あまり専門外のことに立ち入りたくないが,一応,勤務先大学も専門家会議と政府の方針に沿って学生に色々お願いしている当事者なので,学生に不安や疑問があれば答えねばならない。まとめてみた。

1.PCR検査は感染者数を測定するために行っているのではない
 そもそもPCR検査は感染者数を測定するために行っているのではありません。重症者や,既往症のあるハイリスクの感染者を特定して,そのような人の生命を救い,重篤な状態に陥らせないためにあるのです。誰もかれもについて陽性か陰性かを決めるために行っているのではないのです。人数がわからないから検査がおかしいというものではありません。重症者やハイリスク感染者の命を救うことに役立っていれば有効です。

2.感染者数をPCR検査で把握するのは日本では不可能
 検査がたくさんなされないと,確かに感染者数は正確にはわかりません。北海道の感染者数は3月4日までで82人ですが,専門家会議は940人いるだろうと推定しています。しかし,正確に確かめようとしたら,住民を片端から検査しなければなりません。北海道の人口は528万人もいるので,不可能です。3月2日の政府答弁によれば,検査能力は1日4000人超ですから。つまり,感染者を片端から個別に見つけることはそもそも不可能です。

3.軽症の人に検査して陽性であっても,対処は変わらない
 次に,たとえ軽症の人に検査対象を広げた結果,陽性だとわかったとしても,医療機関や本人がやることは同じだということです。重症になりそうな人は今も検査して,陽性だったら入院させています。無症状の人については次に書きます。問題は風邪の症状があるような軽症の人です。
 軽症の人に検査して陽性であったとしたら,どうなるでしょうか。
 まず医療機関。検査数の少ない今は,軽症でもCOVID-19だとわかったら入院させることが多いようです。けれど,検査数を増やして感染者数が多数見つかった場合は病床が足りませんから,軽症者を入院させることは不可能です。そしてCOVID-19には特効薬がありません。ですから,風邪症状なら風邪の治療,肺炎ならば肺炎の治療をするしかありません。ここがインフルエンザと違います。
 次に本人と家族。ここは,日本政府の方針がポイントです。日本の方針は,「風邪の症状が出たら,自宅で療養し,自宅内で自己隔離してください」です。これを守っている限り,風邪の段階ですでに自宅隔離しています。もし軽症のCOVID-19だとわかっても,やはり自宅隔離なので,やることは同じです。
 だから,軽症の人を検査で見つけ出しても,やることは同じなので意味がないのです。
 それどころか,検査対象を広げて大勢の人が病院に押し寄せれば,それだけで感染が広がる恐れがあり,医療崩壊を引き起こします。良いことより悪いことの方が多いでしょう(ドライブスルー検査をすれば,少し改善するかもしれませんが)。
 この方針にも弱点はあります。日本のビジネスパースンが,風邪症状の段階で自宅療養できるかどうか怪しいということと,自宅隔離は家族にとって簡単でないということです。それは,3月1日の投稿に書いた通りであり,政府はこの弱点を補う措置を取らねばなりません。

4.無症状で人に感染させている人をどうやって見つけるか
 一番問題なのは,無症状の人です。検査をしないと無症状病原体保有者が感染を広げるのではないかという不安はもっともなことです。
 これには完全な解決法がありません。片端から検査して見つけることは,2で書いたように不可能ですし,無理にそこに挑戦しても3で書いたように医療崩壊のもとなのでかえって個人にも社会にも有害です。
 となると,方法は二つだと思います。専門家会議が考えているのもこの二つだと思います。
1)感染のクラスターが発覚した時に,そこから濃厚接触者をたどっていって,無症状なのに他人に感染させている人を見つける。この場合は,濃厚接触者なら無症状でも検査しますので,無症状で感染を広げている人を見つけられる可能性があります。
2)とにかく日本の住民全員に,多人数が肘とひじの触れ合う距離で集まるところに行かないでもらう。無症状感染者の人も感染していない人もそうすれば,感染は広がりません。
  政府がこの措置を有効にするためには,やはり補完措置が必要なように思います。さしあたり大規模時差通勤を全国の政府機関に命令して導入し,自治体と企業に要請します。また,交通各社の協力を得て混雑率を緊急調査し,なお一定以上である路線を使う人には,短時間勤務になってでも通勤時間をずらすことを認め,かつ短時間勤務でも給与を保証するよう,政府機関には命令し,地方自治体と企業には要請します。このくらいは必要だと思います。

 なお,これを書き終えてから,感染症専門家である高山義浩医師のFacebook投稿に接しました。照合してみましたが,上記の見解はたぶん間違っていないと思います。
https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=2735521836501306&id=100001305489071

※3月24日修正。4.2)を10-30代の人を対象としていたのを,日本に住む人全員に修正。

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