フォロワー

ラベル 生産管理 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 生産管理 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2023年8月14日月曜日

石田光男・上田眞士編著『パナソニックのグローバル経営 仕事と報酬のガバナンス』ミネルヴァ書房,2022年を読んで

 石田光男・上田眞士編著『パナソニックのグローバル経営 仕事と報酬のガバナンス』ミネルヴァ書房,2022年。幸いにも8月9日石田教授・植田教授が臨席される書評会にオンライン参加させていただいた。著者らは,おそるべき詳細な実態調査と600ページにわたる記述を通して,以下のことを論じている。雇用関係の全体像は,仕事のガバナンスと報酬のガバナンス,両者の整合性を論じないと把握できないこと。仕事のガバナンスの描き方が先行研究では弱かったこと。経営過程とはPDCAサイクルに沿った計画の体系として叙述すべきこと。PDCAに基づく運営を,従業員のできる限り下位の層まで関与させながら進めるのが日本の経営の特質であること。

出版社ページ
https://www.minervashobo.co.jp/book/b589600.html



2023年7月17日月曜日

裁判所は「パフォーマンス・ギャランティ」に加担してベンダー/サプライヤーを鞭打つべきではない

 日本の系列・下請け取引,別名サプライヤー・システムにおいては,ユーザーが目的を達成する水準までサプライヤーが品質保証する「パフォーマンス・ギャランティ」が広く見られる。そのことの具体的立証は容易ではないのだが,ソフトウェア開発契約の世界では,紛争が訴訟になり,訴訟のドキュメントによって実情がかなり明らかになるようだ。しかも,この連載によると判例は,「ベンダーの責任を『契約書に書かれたこと』だけではなく、『契約の目的に照らして必要なこと』とする」方向に傾いているらしい。つまり「パフォーマンス・ギャランティでよい」と裁判所が言っているのだ。

引用)「例えばある裁判では、『設計工程以降を請け負ったベンダーに、ユーザーの示す要件定義書の誤りを指摘すべき責任があった』とされた。要件定義書の内容が専門的であり、知見のあるベンダーが誤りを指摘しなければ、契約の目的を達成するシステムを作り得ないという判断だ」。

 しかし,長期相対取引の中でQCDを向上させてそれなりに成長していた製造業のサプライヤーにとってすら,いまやこうした過酷な品質保証基準はマイナスに働いている。もともとユーザー企業のIT部門が矮小で脆弱であり,ベンダーとその下請けに開発を丸投げし,需要の量的変動を調整するバッファとして下請け発注を用いてきたITでは,産業発展にとってマイナスの作用はさらに大きいのではないか。過酷だが選手につきっきりで教えるコーチが「できるまでやらせる」のと,過酷なだけのコーチが「できるまでやれ」とただ言い放つのは,現代ではどちらも問題だが,前者より後者はさらにひどい。だからこそ訴訟にもなるのであろう。裁判所はユーザーに寄りすぎているのではないか。


最新記事

細川義洋「準委任契約だけど、責任は取ってください」ITatmarket,2023/7/3。

引用元

細川義洋「契約書にも民法にも書かれていませんが、「義務」なので履行してください」ITatmarket, 2023/2/20


2023年6月5日月曜日

東北の自動車部品産業を論じた「自動車部品産業集積の質的発展に向けて ―地場部品メーカー参入と成長への課題―」の原稿PDFを公開しました

 震災復興研究として書いた論文をもう一つ,共著者との合意を得てアップしました。東北の自動車部品産業のデータは少し前の時期のものですが,話の基本方向は今も間違っていないと思います。共著者の千葉啓之助さんは経済学部の大先輩で,1961年卒・安井琢磨ゼミです。

川端望・千葉啓之助「自動車部品産業集積の質的発展に向けて ―地場部品メーカー参入と成長への課題―」(東北大学大学院経済学研究科地域産業復興調査研究プロジェクト編『震災復興政策の検証と新産業創出への提言:広域的かつ多様な課題を見据えながら「新たな地域モデル」を目指す』河北新報出版センター,2014年,207-234頁。

こちらをクリックするとダウンロード



2023年3月25日土曜日

李捷生氏大阪公立大学退官記念講演会にオンライン出席して

  3月18日に,李捷生氏の大阪公立大学退官記念講演会にzoom参加した。

 私は大阪市立大学経済研究所において,氏の前任者であった。自分が転出することになった1997年のある日,後任をどうしたらいいだろうと,同僚の植田浩史氏(現・慶應義塾大学)と話し合ったときのことを覚えている。数分間,二人で考えた後,たぶん私の方からだと思うが,「李さんをお呼びすれば」と気がつき,そうだ,それがいいと早速準備に入ってもらった。ついこの間のことのようだが,もう25年も前の話だ。当時李氏は,松崎義編『中国の電子・鉄鋼産業』法政大学出版局,1996年に寄せた首都鋼鉄に関する論文で高い評判を得ていた。

 李氏の着任後,経済研究所はなくなって,氏は創造都市研究科に移られ(2018年度より経営学研究科),社会人大学院を担当されることになった。経済研究所は研究に専念できる場であったため,改組によって先生に過大なご苦労をかけることになったかと思ったこともある。しかし,講演会に参加して,実におおぜいの大学院修了者が各方面で活躍していることを知り,李氏が偉大な仕事をされたことが理解できた。

 記念講演は,「労働研究38年 -方法としての日本-」という題目で,李氏の研究の問題意識と理論的背景が語られた。

 まず,氏がご自身の中国での経験を背景として,マルクス派宇野理論の「労働力商品化の無理」規定を解釈し,「労働供給は組織コミットメントを通して初めて達成される」という観点で労働調査を行ってこられたことが理解できた。氏の経験からすれば,おそらくそれは「資本主義であれ,社会主義であれ」そうなのだということだ。氏が博士論文・単著において首都鋼鉄における従業員代表者大会によるガバナンスに注目されたのは,中国の国有企業においても,企業の運命は,労働者が組織にコミットする在り方によって左右されると考えられていたからであろう。

 また,李氏の調査の問題設定が,氏原正治郎氏の問題意識を継承したものであることも理解できた。日本企業は生活給的な年功賃金を正規労働者に支給している。熟練や成果に応じた賃金でないのであれば,いったいどうやって労働者のコミットメントを確保しているのか。また職務の曖昧さゆえに労働が「不定量」になる時に,企業はどうやって必要な「量」を確保するのか。それは,一方においては年功的なものを含みつつ様々な展開を遂げる賃金管理によって,他方において生産管理によって確保するということである。この二つが李氏の調査・研究領域となったのである。

 李氏は,詳細な実態調査において右に出る者のない研究者であるが,同時にその研究は,日本のマルクス派や労働問題研究の問題意識や着眼点を受け継ぎ,これを発展させるものでもあった。まさに「方法としての日本」であり,「故きを温ねて新しきを知る」である。

 1970-80年代中国において育まれた氏の鋭い問題意識が,日本の学問の中から自らの方法となり得るものをつかみ取ることを可能にした。私は,日本において積み重ねられてきた学問的伝統を自分がどう扱っているのかを自問せざるを得ない。理論が古くなったから役に立たないのではなく,単に私が漫然と生きているから,先人の蓄積から見つけられるものを見つけられていないのではないだろうか。いや,よく記憶をたどると,氏に初めて会った時からそう思い知らされていたのである。

2022年12月31日土曜日

タイパって,企業はむかしからやっていることですよね

 タイパ。学生に感想を求められたらこう答えよう。

 「タイパ?タイムパフォーマンスですか。個人が自由に行動を選択できる消費場面では,それぞれ好きにすればいいんじゃないですか。楽しそうですね。ただし,忘れてはいけないのは,企業は産業革命以来,企業にとってのタイムパフォーマンスを徹底追求してきたということです。手工的熟練に依存した作業であればそれを徹底的に科学的に研究して無駄のない動作を見つけ出して標準化し,それを実現した場合にだけよい待遇を与えるようにしました。科学的管理法について学びましょう。機械化された作業であれば,その標準化は機械の構造に従って行なうようになりましたし,機械の速度を操作することで労働者にぎりぎり精いっぱいの仕事をさせることも可能になりました。繊維工業については産業革命の工場制度,多数の部品を用いた耐久消費財についてはフォード・システムを学びましょう。わが日本でも,機械が止まっている時間のムダ,人が付加価値を生み出していない時間のムダ,モノが付加価値を与えられていない時間の無駄というものを徹底して削減するしくみとしてトヨタ生産方式があります。素晴らしい技術と管理の発展です。さあ,生産過程におけるこれらの現実をよく学びましょう。これがタイパです。みなさん,どうしてそんな嫌そうな顔をするんですか。え,聞いてて辛い?そうですか。でも知っておかねばならないことです。」

「「新語・流行語大賞」だけじゃない「今年の言葉」 「タイパ」「○○くない」「一生」…」読売新聞オンライン,2022年12月6日。


ジェームズ・バーナム『経営者革命』は,なぜトランピズムの思想的背景として復権したのか

 2024年アメリカ大統領選挙におけるトランプの当選が確実となった。アメリカの目前の政治情勢についてあれこれと短いスパンで考えることは,私の力を超えている。政治経済学の見地から考えるべきは,「トランピズムの背後にジェームズ・バーナムの経営者革命論がある」ということだろう。  会田...