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2025年7月4日金曜日

河野龍太郎『日本経済の死角 収奪的システムを解き明かす』筑摩書房,2025年の核心的主張

 河野龍太郎氏の著作は,多方面に目配りが行き届いている。しかし,その分だけ叙述は錯綜し,言いたいことは必ずしもわかりやすくない。そのため,内容の核心的なすじみちを読者の側が読み取ることが必要である。

 前の前の著作『成長の臨界』は学部ゼミで読んだが,個々のパーツは大変勉強になる一方,全体のメッセージは,著者自身が要約に失敗しているのではないかと思うところがあった。著者自身は,腹を膨らませすぎて破裂したカエルのたとえで,物質的成長至上主義に向かっている政策とシステムが,現代のテクノロジーと合わないのではないかというメッセージを送っていたのだが,それが著作自体の叙述の中身とは合っていないように思われた。

 対して今回の『日本経済の死角』は,著者の自己認識が叙述とぴったり合っているように思う。そのテーマは,サブタイトルが示すとおり「収奪的システムを解き明かす」である。強引に言うならば,本作が言いたいことは,167-168ページの以下の記述に集約されると思う。

 「長期雇用制の枠外にいて,定期昇給の恩恵もほとんど受けることができなかった人々は,過去四半世紀の間,属人ベースでみても,実質賃金の増加が限定的だったことは,これまで詳しく見てきた通りです。それでも何とか暮らしてこられたのは,コミュニティの存在など,様々な要因があるとはいえ,消費者余剰の大きな日本では,あらゆる財サービスが割安に供給されていたことも大きく影響していたと思われます。
 しかし,その前提は2022年からの円安インフレを機に大きく崩れました。価格ばかりが上がって,消費者余剰が著しく低下し,賃金の引き上げが追いついていないから,人々の暮らしが脅かされています。それが,日本でもアンチ・エスタブリッシュメント層が形成されつつある原因ではないでしょうか」。

 収奪的なのは,富と所得が広く行き渡らずに大企業に集中するシステムであり,そうして停滞する市場を悲観した大企業が国内で設備投資をせずに守りの経営に走るシステムである。本書の核心はこのように読むべきだと私は思う。


河野龍太郎『日本経済の死角 収奪的システムを解き明かす』筑摩書房,2025年。
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480076717/




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