ベトジョー記事等を解釈して2023年のベトナム経済を論じる。
2023年のベトナムの実質GDP経済成長率は5.05%であった。2022年の8.02%よりは落ち込み,また政府目標の6.5%には届かなかった。2010年代後半には6%代を維持していたが,成長率を下げる構造的変化があったかどうかは,まだ何とも言えない。
ベトナム経済の成長を支えるのは,海外からの資金流入である。2023年の海外直接投資実行額は前年比3.5%増の232億ドル,認可額に至っては前年比32.0%増の366億ドルと推定されている。さらに在外ベトナム人からの本国送金額が,年平均73億ドルと試算されている。豊かになった国内で発生する所得はもちろん,これらの流入資金もベトナムの投資と消費を支えている。
投資はベトナムを工業化させており,輸出品の構成を製造業品,とくにコンピュータ・電子製品・部品,携帯電話・部品などに高度化させている。輸出の7割は外資が担っている。ベトナムは国際分業の中で組み立てなどの労働集約的工程を担っているから,たとえば最大の輸出品であるサムスンのスマートフォンを輸出しても,部品は輸入しなければならない。とはいえ,全体として280億ドルの貿易黒字を確保しているのだから,工業製品だけでなく農産物輸出に依拠している部分はあるにせよ,国全体としての生産力は向上を遂げていると言ってよい。
弱点は,成長したと言っても製造業に深みがなく,投資が不動産に流れ込んでしまうことだろう。近年のベトナムでは超高層オフィスビル,マンション,郊外の一戸建て住宅地の開発が,短期滞在で目で見るだけでもわかるほどに盛んになっている。しかし,建設途上で放置されている建物があることも事実である。
欧米諸国が,ポストコロナインフレ抑制のために行なった金利引き上げはベトナムにも打撃を与え,2022年の大手デベロッパー,タンホアンミン・グループの社債不正発行事件以来,不動産不況が2023年まで続いた。そのことは私の研究対象である鉄鋼業にも需要停滞となって影響した。
この構図は中国と類似しているが,いまのところ経済全体を停滞に追いやるほどではない。そのことの例証として,ベトナムの外貨準備がある。ベトナムの外貨準備は2021年に1094億ドルにまで積み上がったが,2022年のドル高・ドン安に対応して中央銀行はドン買い・ドル売りの為替介入を行った。ベトナムの通貨当局がドル売り介入を挑むのは無謀と思えたが,外貨準備高は2022年末に865億ドルに減少したものの,2023年末には990億ドルまで回復した。介入の妥当性はとにかくとして,欧米の金融引き締め→ドン安・不動産不況→経済危機と連鎖させずにすんだことのひとつのあらわれであろう。
ベトナムの成長に期待した資金流入がまだ継続しているために,不動産不況が経済全体の危機には至っていない。今後はどうか。注目していきたい。
「ベトナム経済を振り返る:国内総生産(GDP)成長率編 2023年版」ベトジョー,2024年2月8日。
https://www.viet-jo.com/news/economy/240206205135.html
「ベトナム経済を振り返る:対外収支編 2023年版」ベトジョー,2024年2月9日。
https://www.viet-jo.com/news/economy/240206210410.html
「ベトナム経済を振り返る:物価上昇率(CPI)編 2023年版」ベトジョー,2024年2月12日。
https://www.viet-jo.com/news/economy/240206210808.html
「ベトナム経済を振り返る:外国為替レート編 2023年版」ベトジョー,2024年2月13日。
https://www.viet-jo.com/news/economy/240206211329.html
小宮佳菜「ベトナムの不動産市場停滞の背景と今後の見通し」『国際通貨研レポート』2023年12月5日。
https://www.iima.or.jp/docs/newsletter/2023/nl2023.39.pdf