フォロワー

2023年12月9日土曜日

貨幣発行と流通のしくみ(その2) 実際にどんなものが現代の貨幣なのか/お金は誰が発行しているか

 3 実際にどんなものが現代の貨幣なのか

 次の問題は,実際にどんなものが現代の貨幣なのかということです。これを一言で言えば,現金と預金ということになります。

 ここで大事なことは,貨幣とは,中央銀行券,日本で言えば日本銀行券と,硬貨だけではないということです。日本における通貨流通量の定義を見てみましょう。M1とかM2,M3とかいくつかの指標があります。


M1=現金通貨+預金通貨

現金通貨=日本銀行券発行高+硬貨流通高-金融機関保有現金

預金通貨=要求払預金(当座,普通,貯蓄預金など)-金融機関保有小切手・手形 

要求払い預金:預金者の要求によりいつでも払い戻される預金

M2またはM3=現金通貨+預金通貨+準通貨+CD

準通貨=定期預金,据置貯金,定期積金,外貨預金

預金通貨,準通貨,CDの発行者は,M2では国内銀行等,M3では全預金取扱金融機関

CD:譲与性預金(無記名で譲与可能な定期預金)


 まずいちばん簡単なM1を見ましょう。通貨とは現金通貨と預金通貨だと書いてあります。現金通貨とは,日本銀行券と硬貨です。預金通貨とは要求払い預金です。要求払い預とは,預金者の要求によりいつでも払い戻される預金のことです。次にM2とM3はだいたい同じで,M1に準通貨とCDが加わったものです。準通貨というのは,主に定期預金と外貨預金を含みます。いつでもすぐ引き出せる預金とは違いますが,預金の一種です。CDというのはコンパクトディスクではなく,無記名で譲与可能な定期預金で,やはり預金の一種です。M2やM3も,つまりは現金と預金が通貨だと言っているのです。

 では実際の通貨流通量を見てみましょう。2023年5月現在,現金通貨は115.5兆円,預金通貨は958.1兆円,準通貨は486.2兆円,CDが31.0兆円です。現金よりも預金の方がはるかに大きいのです。

 ここで知っておいてほしいのは,現代では預金も貨幣であるということです。預金は貨幣の機能のうち,支払手段機能を中心に果たします。銀行振り込みで代金を払うことや,クレジットカードで買い物をすると,月ごとに預金から代金が引き落とされることをイメージしてください。

 そしてもう一つ付け加えると,預金はデジタル通貨だということです。預金は現金とは別に存在する,数字の上だけでの存在です。だから,コンピュータ出現以前から存在したデジタル通貨なのです。最近になって初めてデジタル通貨が出現したかのようにマスメディアが報道しているのは間違いなのです。

お金は誰が発行しているか

 今度は,お金は誰が発行しているのかを考えてみましょう。一言で言うと,中央銀行と政府と一般の銀行となります。つまり,一般の民間の銀行もお金を発行しているのです。

 一つずつ確かめましょう。中央銀行券は中央銀行が発行していますね。日本ならば日本銀行が発行する日本銀行券,1万円札や千円札です。次に硬貨は,国により制度が違い,一律には言えません。しかし,政府が発行することが多いです。日本でも政府が発行します。ただし,日本銀行に交付して,日本銀行から流通させる仕組みになっています。そして預金通貨は,一般の銀行が発行します。準通貨も同様で,銀行などの預金金融機関が発行します。このように,民間の銀行もお金を発行しているのです 。

■補足
*ここは学問的には何も変わったことは行っていない。ただ,一般向け講演では,預金も通貨だということはよく説明しておく必要がある。実は,「デジタル通貨は,電子マネーや中央銀行デジタル通貨で初めて出現した」という誤った通念も,預金が通貨だということを忘れたところから来る。

0 件のコメント:

コメントを投稿

論文「通貨供給システムとしての金融システム ―信用貨幣論の徹底による考察―」の研究年報『経済学』掲載決定と原稿公開について

 論文「通貨供給システムとしての金融システム ―信用貨幣論の徹底による考察―」を東北大学経済学研究科の紀要である研究年報『経済学』に投稿し,掲載許可を得ました。5万字ほどあるので2回連載になるかもしれません。しかしこの紀要は年に1回しか出ませんので,掲載完了まで2年かかる恐れがあ...