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2024年6月29日土曜日

Waiting for the publishing of C. Y. Baldwin, Design Rules, Volume 2. C. Y. ボールドウィン『デザイン・ルール』第2巻を待ちながら

According to the MIT Press announcement, Carliss Y. Baldwin, Design Rules, Volume 2: How Technology Shapes Organizations, will be published in December this year. The first volume of this book was published in 2000, and a Japanese translation was also published in 2004 by Haruhiko Ando.

 The first volume became the epicenter of the debate surrounding architecture. However, Professor Baldwin is not just discussing whether integral or modular is better. Baldwin is trying to build a general theory of the relationship between technology and organizations.
 Professor Baldwin began writing the second volume in 2016, and the drafts for chapters 1 to 25 are available on Research Gate, SSRN, and the HBS website. In our laboratory, we are reading through these drafts and trying to keep up with Professor Baldwin's new theoretical developments. One of our graduate students, who chose the theme of architecture and organization, is the main person in charge. Reading the 25 chapters at a rapid pace is quite tough, and there is a considerable risk that the finished product will be published before we have finished and we will be forced to compare it with the draft. However, if we can understand the book before other laboratories in Japan and the graduate student's thesis is completed, it will be worth the effort.

 Carliss Y. Baldwin, Design Rules, Volume 2: How Technology Shapes Organizations, The MIT Pressの今年12月が出版が予告されている。本書の第1巻は2000年に出版され,2004年にはボールドウィン&クラーク(安藤晴彦訳)『デザイン・ルール:モジュール化パワー』として邦訳もされている。
 第1巻はアーキテクチャをめぐる議論の震源地となった。しかし,ボールドウィン教授は,インテグラルかモジュラーかというそれだけの議論をしているのではない。技術と組織の関係に関する一般理論を構築しようとしているのだ。
 ボールドウィン教授は,第2巻を2016年から書き始められたそうで,第1章から第25章までのドラフトはResearch GateやSSRN,またHBSのサイトに掲載されている。当ゼミでは,アーキテクチャと組織をテーマとして選択した院生を中心にこれらのドラフトを何とかして読破し,ボールドウィン教授の新たな理論的展開を追跡しようとしている。25章を急ピッチで読むのはかなりきつく,また作業の途中で完成品が出版されてドラフトとの照合を余儀なくされる恐れがかなりあるが,その時はその時だ。国内のよそのゼミより早く本書を理解できて,院生の修論も完成するならば,労力を払う価値はあるだろう。

Carliss Y. Baldwin, Design Rules: How Technology Shapes Organizations, The MIT Press.

2022年10月8日土曜日

T. Fujimoto, A Design-Information-Flow View of Industries, Firms, and Sites(藤本隆宏「設計情報の流れから見た産業,企業,サイト(現場)」を読む

 学部ゼミで訳しながら読むために,T. Fujimoto, A Design-Information-Flow View of Industries, Firms, and Sites(藤本隆宏「設計情報の流れから見た産業,企業,サイト(現場)」を全訳作業中。この論文はSpringerから出版されている単行書の1章だが,オープンアクセスになっており,無料でダウンロードできる。

 実は,私にはこの論文はすんなりと吸収できる。というのは,というのは,マルクス的に読めるからである。いや,階級闘争や社会主義を論じているとかいう意味ではない。以下のような経済理論的読み方ができてしまうのである。

・「ものづくりの組織能力」はマルクスの「協業による生産力」の応用と考えればいい。
・「設計情報の創造と転写」はマルクスの「労働による価値の生成」の拡張とみなせばよい。
・分析単位としての「現場ー企業ー産業」の三層構造は,私が鉄鋼業研究で採用してきた岡本博公氏の「事業所ー企業ー産業」の三層構造とほぼ同じである。岡本説の源流は,堀江英一氏や坂本和一氏によるマルクスの生産力概念の独自解釈である。
・「設計を基礎とする比較優位」も,村岡俊三氏に習った国際価値論の応用とみなせばよい。村岡氏の国際価値論は,マルクス班の比較生産費説を含んでいた。

 藤本氏ご本人はマルクスではなくリカードを現代的に継承されて本論文を書かれている。例えば本論文では利潤の存在根拠は搾取ではなく,設計情報の創造性による希少性のようである。しかし,リカードとマルクスは相当に強い継承性があるので,マルクスに慣れているとやはり本論文はすらすら読めるのである。

 しかし,言いたいのは,私が個人的事情からこういう読み方をするというだけのことではない。藤本説が古典経済学から現代の経営学に至るまでの広大な射程を持った学説だということである。

 藤本説はそのように理解されているだろうか。Google Scholarで見るとまだ7回しか引用されておらず(2022/10/2現在),藤本氏の他の論文よりも引用頻度が低いのは不満である。しかし,その理由は,なんとなく想像がつく。

 まず主流派の経済学者の場合,藤本氏の学説は経営学だということで,あまりご存じないおそれがあり,問題関心も向かないかもしれない。藤本氏のモデルは塩沢由典氏との共同研究により,多国多数財モデルの貿易論として数理マルクス経済学の場で発展させられているが,経済学の学会では少数派であろう。また,主流派の経済学者は「工場や小売店など現場のオペレーションの観察が大事である」と主張する理論を提示されても自分事と思えないのかもしれない。だから,藤本氏の学説をもっと読むべきは,数理マルクス派を除けば,マルクス経済学から出発した産業経済学者や経営学者であろう。私を含めて,どれほど生き残っているのかは別として。

 また,多くの経営学者にとっては,なぜ古典経済学や比較生産費説に寄せたモデルを論じなければならないのか,受け入れがたいのかもしれない。例えば,「第三に,A国とB国の間での,X,Y,Z 各産業の相対生産性比率のプロファイルが,両国の相対賃金率に影響を与える(藤本・塩沢 2011-2012)。つまり,競争相手国に対する全産業の相対的な生産性比率のプロファイルが相対的賃金率に影響を与えるのである。第四に,上記の相対的な生産性と賃金の結果,競争する諸国の産業X,Y,Zの相対的なコストと価格が明らかになる。長期的には,リカード的比較優位の論理により,他の国内産業よりもライバル国に対する相対的生産性比率が高い「比較優位産業」がグローバル市場で選択され,A,B,C国の産業ポートフォリオが形成される」(p. 35)などと書かれると,私には空気のような普通の話であり,経済学者にも了解可能ではあろうが,多くの経営学者にとっては自分事と思えないのかもしれない。

 藤本氏もその学説も著名である。しかし,その学説の根幹は,あまり学界に浸透していないのではないかというのが,私の余計な心配である。上記のように多くの経済学者,経営学者双方の視野の外にある領域をカバーしているからである。また,より身近な次元では,経営論壇において氏の説は単純化されて「インテグラルかモジュラーか」「組織能力に基づくインテグラルな日本のもの造りがすばらしい」「いや,そんなのはもう古い」という次元の応酬に還元されがちである。

 藤本説は,経済学と経営学を統合し,古典的学説と現代的学説を連続させる,深く広大な領域を持つものとして,もっと多くの人によってさまざまな角度から検討されるべきではないかと,私は思っている。

T. Fujimoto. A Design-Information-Flow View of Industries, Firms, and Sites.  T. Fujimoto & F. Ikuine (Eds.). Industrial Competitiveness and Design Evolution (pp. 5-41). Springer, 2018.

<関連>

藤本隆宏『現場主義の競争戦略 次世代への日本産業論』新潮新書,2013年の「情報価値説」 (2014/2/24),Ka-Bataアーカイブ,2018年10月12日。


2021年6月27日日曜日

川端望・銀迪「現代中国鉄鋼業の生産システム: その独自性と存立根拠」を『社会科学』(同志社大学人文科学研究所)に発表しました

 同志社大学人文科学研究所発行の『社会科学』誌に,院生の銀迪さんとの共著論文を発表しました。極度の鉄鋼オタク論文ですが,一応,生産システムの理論的考察を深めたつもりです。また実証的には,21世紀初めの中国鉄鋼業の爆発的成長は大型高炉一貫システムだけによって担われたものではなく,むしろその中心には,中低級品の需要に対する中小型高炉一貫システムによる供給があったこと,誘導炉によるインフォーマル極小ロット生産も相当な寄与をしていたことを明らかにしました。それは技術水準が低かったことをあげつらっているのではなく,その逆で,これらの中小型システムが需要に応えたのだから経済的には合理的だったと評価しています。

 次の問題は,企業・産業レベルで視た場合にはどのような企業が鉄鋼生産を担っていたかということです。そして,このように建設用を中心とした中低級品の需要に民営企業が応えようとしていた時に,政府が実行した産業政策はどのような目的と内容を持ち,どのような役割を果たしたかです。これらは,銀さんが主要著者となって論じる予定で,前者はディスカッション・ペーパー,後者は学会報告までできています。私は,これらの研究が論文として仕上がるように,ここからは支援に徹します。


川端望・銀迪(2021)「現代中国鉄鋼業の生産システム: その独自性と存立根拠」『社会科学』51(1), 同志社大学人文科学研究所,1-31。 

こちらが続編のDP版
銀迪・川端望(2021)「高成長期の中国鉄鋼業における二極構造 ―巨大企業の市場支配力と小型メーカーの成長基盤の検証―」TERG Discussion Paper, 452, 1-34。



2021年1月22日金曜日

中島裕喜『日本の電子部品産業:国際競争優位を生み出したもの』名古屋大学出版会,2019年を読んで

 中島裕喜『日本の電子部品産業:国際競争優位を生み出したもの』名古屋大学出版会,2019年。大きなところでは,1)戦後日本の電子部品産業において,戦前からのラジオ生産や戦時中の電波兵器製造で獲得した技術的能力が継承されていたこと,2)分野別の技術的イニシアチブは,戦後少なくとも1950年代まではセットメーカーよりも部品メーカーにあったこと,3)上記二つの事情もあって,当初は規格品の市販による供給が主流であり,やがて完成品メーカーとの長期相対取引によって特注品を供給する度合いが強まるが,それでも自動車部品産業ほどではなかったことが実証的に解明されていた。現状分析のところも「日本経済」講義の参考になるもので,本書で使用されている資料をさっそく注文した。個人的には,大阪・日本橋電気街の起源が出てくるのも楽しかった。日本のサプライヤー・システムを論じようとする研究者が,自動車部品産業の事例だけを見て一般化する誤りを避けるために読むべき本だ。



2019年10月1日火曜日

佐藤千洋氏博士論文「アーキテクチャの位置取り戦略と製品開発組織 –電子部品メーカーの車載事業傾斜を事例とした分析-」の公表によせて

 当ゼミの後期課程修了生,佐藤千洋さんの博士論文「アーキテクチャの位置取り戦略と製品開発組織 –電子部品メーカーの車載事業傾斜を事例とした分析-」が東北大学機関リポジトリTOURに全文掲載されました。基礎になった論文は査読を経て『赤門マネジメント・レビュー』と『工業経営研究』に掲載されています。
 佐藤さんの論文の特色は,製品開発研究,アーキテクチャ研究の蓄積を踏まえ,これを一歩進める論点を提起して事例研究を行ったことです。まず,アーキテクチャの位置取りにおける依存性と戦略性の把握です。自社および顧客のアーキテクチャをそれぞれ孤立的にとらえるのでなく,相互に影響を与えあうものとしてとらえ,また経営者にとって所与として決定されるものではなく,戦略的に変化させ得るものとして把握しました。次に,アーキテクチャの位置取り戦略と開発組織の相関性の把握です。これまで自社の製品アーキテクチャと製品開発組織の相関性について研究が積み重ねられてきましたが,顧客製品のアーキテクチャを含めて開発組織との関係を論じる視点を打ち出しました。そして専業電子部品メーカーのイリソ電子と総合電子部品メーカーのアルプス電気の車載事業傾斜について比較事例分析を行いました。

<博士論文>
佐藤千洋「アーキテクチャの位置取り戦略と製品開発組織 –電子部品メーカーの車載事業傾斜を事例とした分析-」
http://hdl.handle.net/10097/00125764

雑誌掲載論文
佐藤千洋(2018)「総合電子部品メーカーのアーキテクチャ戦略と開発組織の適合性 : 車載市場への傾斜を踏まえて」『工業経営研究』32(1), 16-27。
https://ci.nii.ac.jp/naid/40021581969
佐藤千洋(2018)「電子部品産業における専業メーカーの競争優位:アーキテクチャ戦略と製品開発体制の適合性の観点から」『赤門マネジメント・レビュー』17(3), 111-130。
https://doi.org/10.14955/amr.0170607a

国際会議報告
Chihiro Sato (2016), A Study on the Business Strategy of Highly Profitable Electronic Component Manufacturers, Proceedings of the 2016 International Conference on Industrial Engineering and Operations Management
Kuala Lumpur, Malaysia, March 8-10, 2016.
http://ieomsociety.org/ieom_2016/pdfs/136.pdf

学会報告
佐藤千洋(2015)「高収益部品メーカーにおける製品戦略 : キーエンスとヒロセ電機の比較」『イノベーション学会年次大会講演要旨集』30(0),2466-469。
https://doi.org/10.20801/randi.30.0_466

大藪龍介『検証 日本の社会主義思想・運動1』社会評論社,2024年を読んで

 大藪龍介『検証 日本の社会主義思想・運動1』社会評論社,2024年。構成は「Ⅰ 山川イズム 日本におけるマルクス主義創成の苦闘」「Ⅱ 向坂逸郎の理論と実践 その功罪」である。  本書は失礼ながら完成度が高い本とは言いにくい。出版社の校閲機能が弱いのであろうが,校正ミス,とくに脱...