中島裕喜『日本の電子部品産業:国際競争優位を生み出したもの』名古屋大学出版会,2019年。大きなところでは,1)戦後日本の電子部品産業において,戦前からのラジオ生産や戦時中の電波兵器製造で獲得した技術的能力が継承されていたこと,2)分野別の技術的イニシアチブは,戦後少なくとも1950年代まではセットメーカーよりも部品メーカーにあったこと,3)上記二つの事情もあって,当初は規格品の市販による供給が主流であり,やがて完成品メーカーとの長期相対取引によって特注品を供給する度合いが強まるが,それでも自動車部品産業ほどではなかったことが実証的に解明されていた。現状分析のところも「日本経済」講義の参考になるもので,本書で使用されている資料をさっそく注文した。個人的には,大阪・日本橋電気街の起源が出てくるのも楽しかった。日本のサプライヤー・システムを論じようとする研究者が,自動車部品産業の事例だけを見て一般化する誤りを避けるために読むべき本だ。
川端望のブログです。経済,経営,社会全般についてのノートを発信します。専攻は産業発展論。研究対象はアジアの鉄鋼業を中心としています。学部向け講義は日本経済を担当。唐突に,特撮映画・ドラマやアニメについて書くこともあります。
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