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2023年2月24日金曜日

『日本大百科全書(ニッポニカ)』の更新項目「鉄鋼業」と新規設置項目「日本製鉄」を執筆しました

 『日本大百科全書(ニッポニカ)』の更新項目「鉄鋼業」と新規設置項目「日本製鉄」を執筆しました。いずれも2023年1月19日更新です。幸い,双方ともサンプルページにありますのでご紹介します。紙で刷られることはなく,ネット版の更新です。『日本大百科全書(ニッポニカ)』の書籍版は1994年に刊行されていますが,全25巻で,一応図書館に見に行きましたが,おいそれと改版を出せるものではありませんね。辞書の類は,場所も取らないし検索の便宜が圧倒的に良いので,書物の中でもオンライン化に特に向いた分野です。

「鉄鋼業」(松崎義氏が執筆された原稿に対し,現状に見合うように加筆し,若干の置換を行ったもの)

「日本製鉄(株)」(新規項目)


2023年2月10日金曜日

水田洋『マルクス主義入門 この思想の流れを創造した人々』カッパブックス,1966年のこと

 水田洋氏の訃報に接する。私は何しろ古典にたいする教養を欠いているので,水田氏の著作もほとんど読んでおらず,お恥ずかしい。唯一,読み通したのが古書店で見かけて買った『マルクス主義入門 この思想の流れを創造した人々』カッパブックス,1966年だが,これは実に面白かった。もちろん,学説の内容としては今では乗り越えられているところもあるだろうが,感心したのは思想史としての書き方であった。マルクスだけが,レーニンだけが真理だ,他の連中はだめだみたいな決めつけが全くなく,むしろ,マルクス主義者たちがどのような問題に突き当たり,それを解決するために何を主張し,どうしたか,その問題は後続の人々にどう受け継がれたかという風に書いてあるので,読者自身が課題に向き合い,追体験しながら読める。例えばレーニン,ルクセンブルク,トロツキー,スターリン,ブハーリンのいずれについてもそのように書いてある。ある意味で客観的で公平であり,しかし正確な意味で実践的な記述なのであったのだと思う。いや,もちろん本当は近代的個人と社会主義についてもっと深く読み取らねばならないのであろうが,教養が足りずに申し訳ない。




2023年2月9日木曜日

ベトナムにおける直接投資プロジェクト認可の分権化に関する問題:Au Thi Tam Minh氏の論文から学ぶ

  一般論として,途上国かつ社会主義国において,地方分権化を進めることは積極的意味を持つことが多い。しかし,対象が大規模FDIプロジェクトの認可であって,また分権化の方法がぎこちなく適切でない場合には,話が違ってくる。ベトナム鉄鋼業における外資誘致について,私はずっとそう思っていた。技術的に合理性のないプロジェクトに認可を与え,プロジェクトは全く進まず建設予定地は更地のままということが少なくなかったからだ。そして初の大型銑鋼一貫企業フォルモサ・ハティン・スチールをめぐっては,高炉操業開始前に魚の大量死事件が発生した。

 ホーチミン国家政治・行政学院のAu Thi Tam Minh氏がESCAPの雑誌に発表したこの論文は,フォルモサ・プロジェクトの誘致と海洋汚染事件をめぐり,行政の機構と運営のどこにどう問題があったかについて,ヒアリングを重ね,何とか具体的に示そうとしている。フォルモサの具体的事例については,どうしても秘密の壁に阻まれて一般論にとどまるところはあるが,中央と地方,部署と部署をめぐる政府間関係の問題については,かなり具体的に解明できている。こういう論文が欲しかったので,たいへん参考になる。

「 FDI管理の分権化の有益な効果にもかかわらず,それがFDIプロジェクトの管理を緩くし,その結果,2016年の環境災害につながったのではないかという懸念は存在する。おそらく,地方当局は慎重な検討なしにFDIプロジェクト誘致を追求した。Hung Nghiep Formosa Ha Tinh Steelプロジェクトの許認可プロセスを振り返ると,広範囲な影響と高い環境リスクを伴うこのような大規模プロジェクトが、大雑把な報告しかなかったにもかかわらず,いとも簡単に承認されたことは驚くべきことである。」(p. 93)

Au Thi Tam Minh, Challenges in implementing decentralization of foreign direct investment management in Viet Nam – case study of the Hung Nghiep Formosa Ha Tinh Steel project in Ha Tinh province, Asia-Pacific Sustainable Development Journal, 2019, vol. 26, issue 2, 83-105.

ジャーナルのページ(ダウンロード可能)
https://www.unescap.org/publications/asia-pacific-sustainable-development-journal-vol-26-no-2-december-2019

直リンク
https://www.unescap.org/sites/default/files/Paper%204_0.pdf

岡橋保信用貨幣論再発見の意義

  私の貨幣・信用論研究は,「通貨供給システムとして金融システムと財政システムを描写する」というところに落ち着きそうである。そして,その前半部をなす金融システム論は,「岡橋保説の批判的徹底」という位置におさまりそうだ。  なぜ岡橋説か。それは,日本のマルクス派の伝統の中で,岡橋氏...