ついにCarliss Y. Baldwin, Design Rules, Vol. 2: How Technology Shapes OrganizationsがThe MIT Pressより発売された。冊子体が日本に届くまで1か月かかるので,私はKindle版を購入した。SSRNとResearchgateに公開されているDP版は結論だけが欠けていて25章あるのだが,完成版は結論を含めて17章だ。出版事情に応じて圧縮したのかもしれない。
第1巻はボールドウィン教授とクラーク教授の共著として2000年に出版され,日本でも『デザイン・ルール:モジュール化パワー』として2004年に翻訳された。第1巻はビジネスを変革するモジュール化の意義を理論化したが,事例研究がIBM360で終わっていたことにより,影響力は今一つであるように思える。しかし,ゼミでDP版を22章まで読んだ者として言うが,第2巻の破壊力は第1巻の比ではない。まず,デザインとアーキテクチャの理論を経済学の根源にまで突き詰めて展開している。例えば経済活動の究極の分析単位は「タスクと移動」であり,しかる後に「取引」があるのだという。これは取引費用理論批判であり,著者の社会科学がモノや情報の代謝の過程と経済的過程の双方を見据えていることを示している。また,著者はチャンドラー的な近代大企業における相互依存的ステッププロセスの統合型(インテグラル型)管理の歴史的意義を十分強調する。その上で,デジタル技術の出現が,それに適合したプラットフォームエコシステムによるプラットフォームとモジュラー・オプションのセットと言う,新たな組織を生み出したことを論じている。事例研究はMackintoshとIBM PCにWINTEL,iPhoneにGoogleとAndroidプラットフォーム,ムーアの法則とのその限界,半導体産業におけるファブレス・ファウンドリモデルとその変容に及んでいる。
現代のビジネスをを論じる上での必読文献となることは間違いなかろう。
Carliss Y. Baldwin, Design Rules, Vol. 2: How Technology Shapes Organizations, The MIT Press, 2024 (Amazon.co.jpのページ)
https://www.amazon.co.jp/Design-Rules-Technology-Organizations-English-ebook/dp/B0CYYYDN4B