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2023年12月17日日曜日

貨幣発行と流通のしくみ(その8)金融システム以外にも通貨供給ルートはあるか

 11 金融システム以外にも通貨供給ルートはあるか

 ここまで私は,金融システムを通した通貨供給のことだけをお話ししてきました。預金貨幣は銀行が発行するものであり,中央銀行券は中央銀行が発行するものですから,もちろん,金融システムが本来の通貨供給ルートなのです。しかし,現代社会にはそれ以外にも通貨供給ルートがあります。それは財政システムです。これはまた別のテーマになるため,今回はお話しすることができませんが,その特徴についてごく簡単にご紹介しておきます。

 財政システムによる通貨供給とは政府の収入と支出のバランスによるものです。政府の収入は主に課税によってまかなわれます。これは経済から貨幣を引き上げます。政府の支出は社会保障,教育,インフラストラクチュアの整備,軍事,公務員給与など様々なことについて行われます。これは経済に貨幣を投じることになります。ですから,全体として支出が収入より大きく,財政が赤字の場合,通貨供給量が増大します。逆に全体として収入が支出より大きく,財政が黒字の場合,通貨供給量が縮小します。財政システムによる通貨供給の原理を,もっとも単純化して申し上げればこうなります。

 金融システムと異なり,財政システムは,つまり課税や支出は,政府の目的意識的な政策によって左右されます。なので,財政赤字になるほど支出を増やして経済を刺激するとか,財政黒字になるほど課税を増やし支出を減らして景気の過熱やインフレを抑制する,といったことが行われています。このように,政策の見地から目的意識的な操作がある程度可能になることが,民間経済の運動に従属している金融システムとの違いです。

 ここに金融システムとはまた別の体系だった仕組みがあり,財政赤字や財政黒字をめぐる大事な問題がありますが,それをお話しするのはまた別の機会にせざるを得ません。

図 10 通貨供給の概念図(財政システム)

 財政システムを通した通貨供給を概念図として示したのが図 10です。そして,金融・財政両システムを総合して通貨供給を表したのが図 11です 。

図 11 通貨供給の総合的概念図


■補足
*通貨供給システムとして金融システムと財政システムがある,逆に言えば財政システムを通貨供給システムという側面から論じることができる,というのが私の見地である。さらに別な言い方をすれば,通貨供給の見地から貨幣・金融システム,財政システムを論じ,次いでマクロ経済政策を論じることで,一つの話が完結するというのが私の構想である。現在行っている日本経済の講演の一部分は,そのように構成している。
*財政赤字は通貨供給量を増加させ,財政黒字は通貨供給量を減少させる。これは,政府が国債を発行して資金調達をする方法が,中央銀行引き受けであっても民間銀行購入であってもともに妥当すると私は考えているが,ここでは説明していない。
*国債を直接民間人が購入した場合のように,政府支出が民間貯蓄の引き上げ,政府による貨幣再投入となり,いわばプラスマイナスゼロである場合もある。
*ただし,私の理解が主流の考えと異なるのは,民間銀行による国債購入を背景とした政府支出の場合は,上記のようなプラスマイナスゼロにならず通貨供給量プラスになると考えていることである。民間銀行は,流通の外にある中央銀行当座預金で国債を購入するし,それによる減額は,政府支出の決済によって銀行預金が,したがって中央銀行預金が増額されることによって相殺されるからである。

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