11 金融システム以外にも通貨供給ルートはあるか
ここまで私は,金融システムを通した通貨供給のことだけをお話ししてきました。預金貨幣は銀行が発行するものであり,中央銀行券は中央銀行が発行するものですから,もちろん,金融システムが本来の通貨供給ルートなのです。しかし,現代社会にはそれ以外にも通貨供給ルートがあります。それは財政システムです。これはまた別のテーマになるため,今回はお話しすることができませんが,その特徴についてごく簡単にご紹介しておきます。
財政システムによる通貨供給とは政府の収入と支出のバランスによるものです。政府の収入は主に課税によってまかなわれます。これは経済から貨幣を引き上げます。政府の支出は社会保障,教育,インフラストラクチュアの整備,軍事,公務員給与など様々なことについて行われます。これは経済に貨幣を投じることになります。ですから,全体として支出が収入より大きく,財政が赤字の場合,通貨供給量が増大します。逆に全体として収入が支出より大きく,財政が黒字の場合,通貨供給量が縮小します。財政システムによる通貨供給の原理を,もっとも単純化して申し上げればこうなります。
金融システムと異なり,財政システムは,つまり課税や支出は,政府の目的意識的な政策によって左右されます。なので,財政赤字になるほど支出を増やして経済を刺激するとか,財政黒字になるほど課税を増やし支出を減らして景気の過熱やインフレを抑制する,といったことが行われています。このように,政策の見地から目的意識的な操作がある程度可能になることが,民間経済の運動に従属している金融システムとの違いです。
ここに金融システムとはまた別の体系だった仕組みがあり,財政赤字や財政黒字をめぐる大事な問題がありますが,それをお話しするのはまた別の機会にせざるを得ません。
図 10 通貨供給の概念図(財政システム)
財政システムを通した通貨供給を概念図として示したのが図 10です。そして,金融・財政両システムを総合して通貨供給を表したのが図 11です 。
図 11 通貨供給の総合的概念図
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