これまで書いてきたように、私は新型コロナウイルス感染症のPCR検査と自宅療養に関する限り、専門家会議と日本政府の方針は間違っていないと思う。しかし、家族、友人、学生と話しているうちに、間違っていなければいいというものではなく、このままでは人々の不安・不満が募るばかりではないかとも思うようになってきた。以前も一度書いたが、もっと整理してみたい。
1.自分や家族が感染したのではないかという不安
PCR検査は、重症者と既往症のあるハイリスク感染者を特定し、それにふさわしい治療を受けさせるために、医師の判断によって行われる(もはや保険が適用され、保健所の判断は不要になった)。何度も書いたがそれは正しい。
だが、多くの人は不安になる。風邪のような症状があって、COVID-19かもしれないから確かめて欲しいと思うからであり、自分が感染していないことを確認したいからだ。しかし、そのように言っても多くの場合、医師は「必要ない」という。それどころか、コールセンターが「むやみに検査のために病院に行かない方がいい」という。
不安で仕方がないのに、検査してもらえず、病院で診てももらえないというないという不満が募る。
2.自宅療養への不安
いまは、風邪のような症状がある人から自宅療養することが大切だ。それによって感染の拡大を防ぐことができるからだ。何度も書いた通り、それは正しい。
だが、多くの人は不安になる。自分や家族の風邪の症状がだんだん重くなってきても、コールセンターは「むやみに病院に行かない方がいい」と言う。病院に行っても、風邪や肺炎の治療はしてもらえることもあるが、とにかく自宅で安静にせよとしか言われることもある。
1人暮らしで身の回りの世話を自力でしながら自宅療養せよと言われるのも辛いが、家族がいて感染させないようにしなければならないのも不安だ。子供やお年寄りが感染して自分が家族の場合、どうやったら看病しながら自分への感染を防ぐのかというのも不安だ。そもそも子どもやお年寄りが風邪を引いた場合、濃厚接触せずにいるのは困難だ。一人でお風呂に入れない場合はどうしたらいいのか。
症状がだんだんと重くなってきて、COVID-19ではないかと不安になっても、上記のようになかなか検査もしてもらえない。不満が募る。あげく、今後感染者総数が増えると病床が塞がり、検査して「陽性」と分かっても軽症者だと自宅待機、自宅療養になる可能性がある。
これを要するに、COVID-19ではないかという不安と、自宅療養への不安、そしてその双方について「何もしてもらえない」という不満を抱く人が多くなっていく可能性がある。
専門家会議と政府の方針は、1)医療崩壊を防いで死亡者を少なくするためと、2)感染拡大のスピードを落とす上で正しい。しかし、これは一個人にとってみると、「自分のことより社会的に感染を拡大させないことを考えよ」と言われているに等しい(「無闇に病院に行かない方がいい」は本当は自分の利益になるのだが、病院が当てにならないと感じてしまう)。自分のためには「何もしてもらえない」と見えてしまう。それでは、方針は実行されないし、社会は不安定になってしまう。民主主義の社会では、政府方針の実行も人々の気持ちと意思と自発的行動にかかっているからだ。
政府や専門家会議には、この二つの不安・不満を緩和する対策にもっと力を注いでほしい。私は素人なので専門的に的を射た方法がわからないが、例えば、十分ではないにせよ以下のようなことはできるのではないか。まちがっているかもしれないので、もっと専門的に検討してほしい。その際、医療と公衆衛生の見地に加え、心理学的見地を十分に考慮してほしい。
1)医師が必要と認めた場合の検査はとどこおりなく行われるようにする。
2)「誰でも検査すべきだ」などとマスコミや政治家が言う場合は反論すればいいが、一般市民が訴える場合には、自治体窓口や医療機関は「あなたは間違っている」などと言わずに、いかに不安で苦しい状態にあるのか、よく話を聞くようにする。時間がかかってしまうので、このためにも相談、カウンセリングの窓口、電話を受ける体制は拡充する。
3)自宅療養について、当人及び家族の負担を和らげる支援措置を取る。Youtubeで自宅療養の方法をわかりやすく映像で流す。自宅療養する重い風邪の人にも、今後増えるかもしれない感染が判明した入院待機の人にも、一定の基準を決めた上で、政府・自治体が調達したマスク、シーツ、消毒液、手袋、タオルと、自宅療養のわかりやすい手引きを無償支給する。自宅療養者とその家族には、特別な体制で電話、メール、チャットでの相談に乗る。
川端望のブログです。経済,経営,社会全般についてのノートを発信します。専攻は産業発展論。研究対象はアジアの鉄鋼業を中心としています。学部向け講義は日本経済を担当。唐突に,特撮映画・ドラマやアニメについて書くこともあります。
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