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2020年3月14日土曜日

「何もしてもらえない」という不安に政府が応えなければ,検査キットに飛びつく人は多いだろう

 孫正義氏は簡易PCR検査100万人分の提供をしたいと表明したが,批判が多いことを受けて撤回し,マスク100万枚無料提供に切り替えたようだ。

Twitter 孫正義@masason

 孫氏への批判自体はもっともだ。何度も言うが,PCR検査の感度が70%程度しかなく,新型コロナウイルス感染症に対する特効薬もない以上,検査は重症者同定のために医師の判断に拠って行い,軽症者は感染以前に風邪の症状があるうちから自宅療養するという日本政府方針の方針は合理的だ。

 だが,ここで言いたいのはそのこと自体ではない。孫氏が今回,検査キットの提供を止めるとしても,やがて(あるいはまもなく)誰かが提供を始めるかもしれず,その配布は少なくない人に受け入れられるだろうということだ。なぜならば,医学的・公衆衛生的な見解にかかわらず,多くの人が検査を求めているからだ。その根底には「自分または家族が感染しているのではないか」という不安があり,「それなのに行政と医療機関は何もしてくれずに,病院に来るな,軽症なら自宅療養せよとばかり言う」という不満があるからだ。

 強い不安・不満が社会行動を引き起こすこともまた確実である。敢えて言えば,それは医学的見地がどうあれ社会科学的にありうることであり,それもまた科学的に理解すべき現象なのだ。

 だから,検査を求める心理に対して,医学・公衆衛生的に間違っていると非難するだけでは問題は解決しない。医学や公衆衛生の見地を曲げる必要はないが,それに立脚しながらも,不安・不満にこたえる社会的な対策が必要なのだ。

 では,どうすべきなのか。ここからは頭の体操レベルの話しかできないし,いくつかはこれまで書いたことの繰り返しだが,私は以下のことが必要だと思う。FB友人で政治・行政に携わる方には,左右を問わずご一読いただけると幸いだ。

1.政府や専門家会議,自治体,医療機関は,PCR検査や簡易キットの不正確さを指摘してもいいが,「そんなものを信じるな」的対応をしない。それでは行政と医療機関への不満はますます募る。
2.簡易キットなどで陰性と判定された人にも,あくまで安心して危険な行動をしないように呼び掛ける。要するに,密閉された空間で多人数で集まり,発話・会話しないことを繰り返し呼びかける。
3.陽性が判明して治療を求める人には,無症状または軽症であれば自宅療養としてもらうことを徹底する。ただし,ただ「家にいて人に感染させるな」と命じるだけの態度を取らない。みな「何もしてもらえない」ことが不安だからだ。行政は,自宅療養を系統的に支援することが必要だ。例えば,看護ツールの提供,定期相談体制,いざというときに医療機関につなぐ連絡体制。
4.医療機関のパンクを防ぐとともに家族内感染を防ぐために,韓国の生活治療センターのような一時療養施設の設置を検討する(自宅療養支援に集中するのが良いか,一時療養施設も設置する方が良いか,韓国の事例を調べて,今から検討しておく)。
5.「風邪症状があって自宅療養する」ことの社会的ストレスと経済的負担を下げる社会政策を打つ。すなわち,風邪症状があって自宅療養することについての休暇を認めるように政府機関に強制し,民間企業に要請する。あわせて,風邪症状がある従業員に出勤を命じることを労働契約法上の安全配慮義務違反であると厚労省から通知する。
 上記休暇を政府機関では有給にする。企業が経営事情から有給に出来ない場合も多くなると思われるので,後日,給与相当分を労働者に直接還付する制度をつくる。企業の休暇に関する記録と賃金台帳から給付額を算定する。

 具体的方策がこれでよいかはともかくとして,政府や専門家会議は,医療崩壊を防ぐとともに,「何もしてもらえない」という不安を緩和するように努めるべきだ。



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