森まさこ法相は,「12歳のとき父が全財産を無くし弁護士に救われたのが」弁護士を目指したきっかけだという。「働きながらの進学。苦しかった」とも言われる(留学記)。消費者保護問題に関心があり,「困っている人を助けたい」という思いが自分を導いて来たとも言われる(公式サイト)。私は東北大学で森氏と別の学部で同学年であった。彼女は男子学生の間で有名人であったからその存在は知っていたが,学生行事の事務連絡でお話しした以外は接点はなかった。そんなことを考えていたのだなあと,しみじみ思う。
今回の「東日本大震災の時、検察官は福島県いわき市から国民が、市民が避難していない中で最初に逃げたわけです。その時に身柄拘束をしている十数人の方も理由なく釈放して逃げたわけです。災害の時も大変な混乱が生じると思います」という発言は,震災後の検察への怒りが思い起こされてのことだろう。震災後に森氏は野党議員として(当時は民主党政権),2011年10月27日や11月24日の参議院法務委員会で,福島地検が「震災直後に福島地検いわき支部が、いわき市は避難地域でもないのに市民を置き去りにして国家機関である検察庁が先に逃げて、その前提として被疑者を釈放した」(11月24日)としている。それが事実であるかは別として,被災地住民への思いから当時このように主張されたのだろう。私は,それは疑わない。
だが,被災地住民への思いも,いま森氏が行っている,法解釈を強引に変えて東京高検検事長の定年を延長し,その流れで検察官の定年を延長しようという,そんな仕事の中で唐突に語るとおかしなことになる。冒頭の発言は,検察官の定年延長がどうして必要になったのかと問われての発言だ。検察官というのは定年延長しなければ災害時に職場を放棄して逃げるものなのか。また森法相は,災害時に職場を放棄して逃げるような検察官を管轄しており,そんな人たちの定年を延長しようというのか。そんな人たちも定年を延長すれば逃げないのか。
まちがっているというより,全然関係ないことだろう。
そう。検察官の定年延長は,森氏の被災地への思いと関係ないのだ。森氏が「困っている人を助けたい」というならば,それとは無縁の特定秘密保護法の推進や検事長の定年延長などに携わらねばならない,自民党内閣の大臣など辞めてはどうか。その方が,ご自身の原点に沿って働けるのではないのか。
ニューヨーク大学ロースクール(NYU)留学体験記。魚拓
http://web.archive.org/web/20130309105748/http://www.nichibenren.or.jp/activity/international/studyabroad/nyu.html
森まさこOfficial Website
https://morimasako.com/
第179回国会 参議院 法務委員会 第2号 平成23年10月27日
https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=117915206X00220111027&spkNum=131¤t=4
第179回国会 参議院 法務委員会 第4号 平成23年11月24日
https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=117915206X00420111124¤t=2
「森法相「国会審議に迷惑」と陳謝 検察逃亡で釈明、野党納得せず」時事ドットコムニュース,2020年3月13日。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020031300607&g=pol
川端望のブログです。経済,経営,社会全般についてのノートを発信します。専攻は産業発展論。研究対象はアジアの鉄鋼業を中心としています。学部向け講義は日本経済を担当。唐突に,特撮映画・ドラマやアニメについて書くこともあります。
フォロワー
登録:
コメントの投稿 (Atom)
大藪龍介『検証 日本の社会主義思想・運動1』社会評論社,2024年を読んで
大藪龍介『検証 日本の社会主義思想・運動1』社会評論社,2024年。構成は「Ⅰ 山川イズム 日本におけるマルクス主義創成の苦闘」「Ⅱ 向坂逸郎の理論と実践 その功罪」である。 本書は失礼ながら完成度が高い本とは言いにくい。出版社の校閲機能が弱いのであろうが,校正ミス,とくに脱...
-
山本太郎氏の2年前のアベマプライムでの発言を支持者がシェアし,それを米山隆一氏が批判し,それを山本氏の支持者が批判し,米山氏が応答するという形で,Xで議論がなされている。しかし,米山氏への批判と米山氏の応答を読む限り,噛み合っているとは言えない。 この話は,財政を通貨供給シ...
-
文部科学省が公表した2022年度学校基本調査(速報値)によれば,2022年度に大学院博士課程に在籍する学生数は7万5267人で,2年連続で減少したとのこと。減少数は28人に過ぎないのだが,学部は6722人,修士課程は3696人増えたのと対比すると,やはり博士課程の不人気は目立...
-
「その昔(昭和30年代)、当時神戸で急成長していたスーパーのダイエーが、あまりに客が来すぎて会計時の釣銭(1円玉)が用意できない事態となり、やむなく私製の「1円金券」を作って釣銭の代わりにお客に渡したところ、その金券が神戸市内で大量に流通しすぎて」云々というわけで,貨幣とは信用...
0 件のコメント:
コメントを投稿