経済面での新型コロナウイルス危機は、1997年のアジア金融危機や2008年の世界金融危機(リーマン・ショック)と異なり、金融危機とその伝播をきっかけとするものではない。グローバルに伝播したのは新型コロナウイルスであり、それにより実物経済需要が急速に減退していることが原因である。もっとも、アメリカ、ヨーロッパ、日本では景気は昨年から後退傾向を見せていたので、さらなるひと押しであったと言える。
実物の需要不振による不況に対する対策は、本来、金融危機とは異なる。1997年や2008年のように、流動性の無制限供給、金融商品取引の緊急の規制、金融機関の整理と救済、投資家のパニック制止が先行し、またメインになるのではない。実物的需要の減退を食い止め、営業と生活を防衛する措置を先行させ、市民全般の不安を緩和することを中心に据えなければならない。それが本筋のはずだ。
しかし、金融危機がいったん生じると、自己再強化的に連鎖し、たちまち恐慌の主役を乗っ取ってしまう。金融システムが崩壊し、それが実物経済に逆流する流れの方が強くなってしまう。そのため各国政府や国際機関は、本来とるべき実物的な需要喚起と社会不安の緩和措置、すなわち医療の充実や家計への所得保障、企業への運転資金の融資といったことよりも、信用連鎖の崩壊を食い止めることに全力を傾けねばならなくなる。
実物の需要減退を食い止めることなく信用恐慌防止に駆け回るということは、効率的でない金融機関や金融機構をも守り、投機家を破産させないということである。救済のために供給された通貨がただちに産業的流通に回らずに金融的流通に回るということでもある。これは、次のバブルの種をまく可能性を秘めている。金融的流通を駆け回るマネーは、増殖の根拠を求め、次の成長産業らしきところ探し、見つかれば一気に流れ込む。そうした動きは、株高で利潤は大きいのに投資は停滞し、賃金は上がらず格差が拡大するという形の、さほど盛り上がらない好況しか生まない。世界金融危機後に21世紀の長期停滞と呼ばれた現象だ。
ここには、救済においても次の成長においても、明らかな本末転倒がある。しかし、こうした本末転倒をある程度まで避けることができなくなってしまっているのが、現代のグローバル金融資本主義だ。ちょうど、治療薬とワクチンが開発されない限り、新型コロナウイルスの感染を、低いピークで遅らせることはできてもなくすことはできないことと似ている。グローバル金融資本主義の病を治療する方法を見つけて世界の多数が合意しない限り、世界恐慌を防ごうとすれば金融機関中心のバブル的救済をせずにいられないのだ。
実物の不況に対して、実物の対策で応じていき、それによって金融危機も食い止めるというのが最も望ましいシナリオだ。だが、グローバル金融資本主義は、そのシナリオから各国政府や国際機関を逸脱させる危険を秘めていることも直視しなければならない。
川端望のブログです。経済,経営,社会全般についてのノートを発信します。専攻は産業発展論。研究対象はアジアの鉄鋼業を中心としています。学部向け講義は日本経済を担当。唐突に,特撮映画・ドラマやアニメについて書くこともあります。
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