日本の株式市場を支えてきた2頭のクジラが危うくなっている。孫引きで恐縮だが『日経ヴェリタス』はGPIFの運用資産に3月13日現在、内外株式で約15兆円、債券で約5兆円の損失が発生していると推定している(※)。運用資産は169兆9900億円だから、10%を少し上回るほどが吹き飛んでいる。また、3月18日に黒田総裁が国会で語ったところでは、日銀が保有するETFには2-3兆円の含み損が発生している。バランスシート上の保有額は29兆970億円だから、含み損が大きい方であればその10%程度が吹き飛んでいる。
GPIFについては、問題は明らかだ。GPIFの責任は年金積立金を運用して増やすことである。増やせないならば当然に責任が生じる。ポートフォリオを変えて国内株式の構成を大きくし、リスクを取ったのだから、株価が下がれば損失が出るのは当たり前だ。その責任をとり、投資政策を再検討することが求められる。問題の構造は明確だ。
日銀は少し話が異なる。日銀は利益のためにETFを買っているのではない。民間企業の経済活動の成果を日銀が吸い上げることに何の正統性もないからだ。日銀は建前としては「リスク・プレミアムを下げるため」、自分では決して言わないが、わかりやすく言えば株価を支えるためにETFを買っているのだ。
なので株価が暴落したいま、日銀はダブルバインドに陥っている。一方で、自らの目的に沿って株価を支えるために、日銀はさらにETFを買い増そうとしている。この投資家は、暴落中に2-3兆円の含み損を出して、さらに買い向かおうというのだ。損失は不可避だ。しかし、自己利益を重視してETF購入をストップすれば、日銀というクジラ投資家の撤退が悪材料となり、さらに株価は下落して恐慌を加速させるだろう。日銀は買うも地獄、買わないも地獄の構造にはまってしまっている。こうなると、どうしたらよいという提案のしようもない。2010年以来、ETFをだらだらと買い続けたこと自体が間違いだったのだ。
なお、日銀がETFで含み損を出した場合、少なくとも引当金を積む必要がある。そして剰余金が減り、政府への納付金が減る。日銀は倒産しないが、損失を出すことには独自の問題がある。これはやや複雑なので、別途ノートしたい。
湯池正裕「日銀総裁「現時点で含み損2~3兆円」 保有中のETF」朝日新聞デジタル,2020年3月18日。
https://www.asahi.com/articles/ASN3L5WF2N3LULFA025.html
※「安倍政権、消費税「減税」論浮上…日銀、ETF含み損で巨額損失か、揺らぐ中央銀行の信頼」Business Journal,2020年3月16日。
https://biz-journal.jp/2020/03/post_146916_2.html
「公的資金による2頭のクジラが株価を支えきれなくなる時」2019年2月5日,Ka-Bataブログ。
https://riversidehope.blogspot.com/2019/02/blog-post.html
川端望のブログです。経済,経営,社会全般についてのノートを発信します。専攻は産業発展論。研究対象はアジアの鉄鋼業を中心としています。学部向け講義は日本経済を担当。唐突に,特撮映画・ドラマやアニメについて書くこともあります。
フォロワー
登録:
コメントの投稿 (Atom)
クリーブランド・クリフス社の一部の製鉄所は,「邪悪な日本」の投資がなければ存在または存続できなかった
クリーブランド・クリフスのローレンコ・ゴンカルベスCEOの発言が報じられている。 「中国は悪だ。中国は恐ろしい。しかし、日本はもっと悪い。日本は中国に対してダンピング(不当廉売)や過剰生産の方法を教えた」 「日本よ、気をつけろ。あなたたちは自分が何者か理解していない。1945年...
-
博士課程で留学生の割合が高いのはけしからんという議論が,一部から流されている。しかし,これは外国勢力の陰謀でもなければ,大学経営陣が外国におもねっているからでもない。単に日本が「博士冷遇社会」だからなのである。 これについて冷泉彰彦氏が 「博士課程の奨学金受給者の約4割が留学...
-
『ウルトラマンタロウ』の最終回が放映されてから,今年で50年となる。この最終回には不思議なところがあり,それは第1話とも対応していると私は思っている。それは,第1話でも最終回でも,東光太郎とウルトラの母は描かれているが,光太郎と別人格としてのウルトラマンタロウは登場しないこと...
-
中国の日常系アニメ『呼喚少女Call Up ・Girls』のPVがすごいという話。2019年からマンガとしてネット配信されていた作品がアニメ化されたという局面らしい。一瞬,日本のアニメかと思うがセリフも背景の文字も簡体字であるし,制服がジャージっぽいので間違いなく中国である。デ...
0 件のコメント:
コメントを投稿