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2019年12月24日火曜日

レイモンド・ヴァーノンのプロダクト・サイクル論と大都市圏研究

 Raymond Vernon, “International Investment and International Trade in the Product Cycle, Quarterly Journal of Economics, Vol. 80, May 1966.プロダクト・サイクル論の元祖である。大学院でもう少なくとも7回講義しているのだが,今回は,ヴァーノンがこの論文以前に行っていたニューヨーク大都市圏研究との関係をとりあげた。これは経済地理学者には当たり前のことなのだが,今回ようやくヴァーノン(蝋山正道監訳)『大都市の将来』東京大学出版会,1968年(原著1960年)を併読して論じることができた。

 ヴァーノンの理論には,一般的な立地法則がきれいにモデル化されている側面と,実は市場の不完全性を強く指摘している側面という二面性がある。ここでは前者を取り上げる。プロダクト・サイクル論のこの側面は,『大都市の将来』と併読すると理解しやすい。

 ヴァーノンは,輸送費,賃金,外部経済などを産業立地を規定する要因とし,どの要因が強く作用するかによって産業や製品を区分する。これは大都市研究でもプロダクト・サイクル論でも同じだ。しかし,違いもある。
 大都市圏研究ではこれらによって,同時点での産業の類型をとらえていた。輸送費が重要な産業,賃金コストが重要な産業,外部経済が重要な産業という具合である。しかし,プロダクト・サイクル論では新製品が成熟化し,標準化していくという時間進行によって,立地優位性が移り変わっていくととらえているのだ。
 これはプロダクト・サイクル論と雁行形態論の違いにもかかわる。両者は,小島清が自ら整理したように,先進国から見たサイクルと途上国から見たサイクルとして対比されることが多い。しかしもう一つ,「何が変わることでサイクルが進むのか」が異なる。プロダクト・サイクルは製品や工程の設計が標準化することによってサイクルが進む(ドミナント・デザイン論の萌芽)。つまり製品・工程が変わる。一方雁行形態論は,各国で資本と知識の蓄積が進むことによって要素賦存の相対関係が変わることによって雁行が国際的に伝播する。つまり,国の要素賦存が変わるのだ。これが両理論の違いである。

 ここまでで確認したいのは,ヴァーノンのプロダクトサイクル論とは何よりも立地論,あるいは立地優位性の理論だということだ。そこから直接的に導けるのは,単純な要素賦存説とは違うものの,ある種の比較優位論であり,したがって貿易論である。直接投資論ではない。プロダクトサイクル論を何よりも直接投資論と捉えるのは適切ではないのだ。

 写真の板書は1枚目がプロダクトサイクル論。2枚目が雁行形態論。3枚目は,論文をカフェでばかり読んでいることと,7回読んでも覚えない証拠。





2018年10月6日土曜日

製鉄所に刻まれたアメリカ鉄鋼業衰退の歩み

 『ワシントンポスト』10月3日の記事に寄れば,アメリカ高炉メーカーはトランプ政権の保護関税のおかげで,一息ついている。しかし,経営側・労働側ともに長期低落傾向を食い止める戦略を持たない限り,いくら保護をかけても一時的な効果しかないであろう。
 記事にあるように,高炉メーカーは海外メーカーだけとではなく,国内の電炉メーカーとも競争しなければならない。電炉メーカーの多くはノンユニオンで,最新技術を取り入れて,製品構成を鋼板類に広げている。対して高炉メーカーは,一部,拠点になりそうな製鉄所(USスチールゲイリーとかアルセロールミタルUSAインディアナハーバーとか)もあるにはあるが,多くはリストラして生き残った設備を継ぎ合わせて使用しており,組織率も組合員数も低落傾向にあるとはいえUSWA(全米鉄鋼労働組合)に組織されている。
 それでも,倒産したことのないUSスチールはまだましな方かもしれない。破産法第11条を申請して経営破綻した多くのアメリカ高炉メーカーは,労働協約を無効化し,年金債務を帳消しにし,設備簿価を極度に切り下げて再生された。だから,技術・設備が十分現代化されていないのに,コストが安いということになっている。それでも,輸入鋼材の圧力に耐えられないのだ。
 この写真を手掛かりにしてみよう。クレアトン市長リチャード・ラッタンツィ氏が背にしているのはUSスチールクレアトン工場だ。クレアトン工場は,モン・バレー製鉄所の一部である。モン・バレー製鉄所は全体としては銑鋼一貫製鉄所,すなわち原料処理(コークス,焼結)-製銑-製鋼-圧延-表面処理を行うコンプレックスだ。しかし,その実態は,モノンガヒラ川沿いに点在する四つの工場である。クレアトン工場がコークスを生産し,エドガー・トムソン工場が製銑・製鋼(精練・連鋳)を行ってスラブを作り,アーヴィン工場が薄板熱延,冷延,亜鉛めっきを行い,フェアレス工場もまた亜鉛めっきを行う。だが,かつてはクレアトン工場,エドガー・トムソン工場も,フェアレス工場もみな一貫製鉄所であった(アーヴィン工場だけは初めから圧延工場だった)。度重なる工場閉鎖,相対的に優位な工場だけを残す生産システム再編成の結果,四つの工場を河川輸送でつないで,かろうじて一貫体制を維持するようになったのである。四つの工場の航空写真をグーグルマップでみると,アーヴィン工場以外では空き地が多い。とくにフェアレス工場は空き地が面積の過半を占める。そこにはかつて,高炉,平炉や転炉,圧延機が並んでいたのだ。



2018年10月5日のFacebook投稿を修正のうえ転載。

ジェラルド・A・エプシュタイン(徳永潤二ほか訳)『MMTは何が間違いなのか?』東洋経済新報社,2020年を読んで

 ジェラルド・A・エプシュタイン(徳永潤二ほか訳)『MMTは何が間違いなのか?』東洋経済新報社,2020年。原題もGerald A. Epstein, What's wrong with modern money theory?なので邦題は間違っていないのだが,内容はタイ...