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2018年10月6日土曜日

製鉄所に刻まれたアメリカ鉄鋼業衰退の歩み

 『ワシントンポスト』10月3日の記事に寄れば,アメリカ高炉メーカーはトランプ政権の保護関税のおかげで,一息ついている。しかし,経営側・労働側ともに長期低落傾向を食い止める戦略を持たない限り,いくら保護をかけても一時的な効果しかないであろう。
 記事にあるように,高炉メーカーは海外メーカーだけとではなく,国内の電炉メーカーとも競争しなければならない。電炉メーカーの多くはノンユニオンで,最新技術を取り入れて,製品構成を鋼板類に広げている。対して高炉メーカーは,一部,拠点になりそうな製鉄所(USスチールゲイリーとかアルセロールミタルUSAインディアナハーバーとか)もあるにはあるが,多くはリストラして生き残った設備を継ぎ合わせて使用しており,組織率も組合員数も低落傾向にあるとはいえUSWA(全米鉄鋼労働組合)に組織されている。
 それでも,倒産したことのないUSスチールはまだましな方かもしれない。破産法第11条を申請して経営破綻した多くのアメリカ高炉メーカーは,労働協約を無効化し,年金債務を帳消しにし,設備簿価を極度に切り下げて再生された。だから,技術・設備が十分現代化されていないのに,コストが安いということになっている。それでも,輸入鋼材の圧力に耐えられないのだ。
 この写真を手掛かりにしてみよう。クレアトン市長リチャード・ラッタンツィ氏が背にしているのはUSスチールクレアトン工場だ。クレアトン工場は,モン・バレー製鉄所の一部である。モン・バレー製鉄所は全体としては銑鋼一貫製鉄所,すなわち原料処理(コークス,焼結)-製銑-製鋼-圧延-表面処理を行うコンプレックスだ。しかし,その実態は,モノンガヒラ川沿いに点在する四つの工場である。クレアトン工場がコークスを生産し,エドガー・トムソン工場が製銑・製鋼(精練・連鋳)を行ってスラブを作り,アーヴィン工場が薄板熱延,冷延,亜鉛めっきを行い,フェアレス工場もまた亜鉛めっきを行う。だが,かつてはクレアトン工場,エドガー・トムソン工場も,フェアレス工場もみな一貫製鉄所であった(アーヴィン工場だけは初めから圧延工場だった)。度重なる工場閉鎖,相対的に優位な工場だけを残す生産システム再編成の結果,四つの工場を河川輸送でつないで,かろうじて一貫体制を維持するようになったのである。四つの工場の航空写真をグーグルマップでみると,アーヴィン工場以外では空き地が多い。とくにフェアレス工場は空き地が面積の過半を占める。そこにはかつて,高炉,平炉や転炉,圧延機が並んでいたのだ。



2018年10月5日のFacebook投稿を修正のうえ転載。

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