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2018年10月6日土曜日

顔の見える人としての右翼:安田浩一『「右翼」の戦後史』

 安田浩一『「右翼」の戦後史』が面白いのは,著者が右翼と呼ばれる人々のもとに足繁く通い,右翼と呼ばれる人々の中にあった多様性,背景,そして何よりも個人としての紆余曲折を浮き彫りにしていくところだと思う。
 右翼というのは政治勢力であり,政治勢力は,政治という人間生活のほんの一側面においてしか存在しない。しかし,その実態は,仕事も生活もある一人一人の人間なのだ。人間は歴史を背負い,思想とともに感情を持ち,お互いに向き合って,相手も人間であることを感じながら暮らす。本書はそういう感覚を呼び起こさせる。
 しかし同時に,本書は右翼思想には,そうした個人の多面性,人々の多様性を押し流す強い傾向があること,さらに右翼の現代的潮流,すなわち日本会議やネット右翼が,その傾向を露骨に拡大しつつあることに警鐘を鳴らしている。薄っぺらで憎悪に満ちた書き込みの集積,群衆的行動による罵倒,民族差別,性差別,思想差別。威圧。排除。顔の見える者同士,いろいろな側面を持つ個人同士ならばためらうことが,容赦なく行われ,広がりつつあるのだ。

安田浩一『「右翼」の戦後史』講談社,2018年。
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000210915

2018年9月29日のFacebook投稿を転載。

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