東京都内で開催中の世界鉄鋼協会の大会。『日刊鉄鋼新聞』によれば,世耕経済産業大臣は「日本の優れた省エネ技術・低炭素技術の普及を進め、また石炭の替わりに水素を使って鉄鉱石を還元すると同時に、発生するCO2を分離・回収する世界最先端の技術開発を支援していきたい」とあいさつした。
水素還元とCO2分離・回収は,高炉法など鉄鉱石からの鉄源製造を低炭素化するために重要だ。そのために,鉄鋼業界は革新的製鉄プロセス技術開発COURSE50に取り組んでいる。しかし,その計画によれば,この二つの技術は2030年までに開発され,2050年までに実用化・普及するものであって,CO2排出量の削減率は30%だ。一方,IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が10月8日に発表したところでは,地球温暖化の影響は予想より深刻に表れそうであり,これを防止するには産業革命以前からの気温上昇をこれまで目標としてきた2度でなく1.5度に抑える必要があり,そのためには全世界の人為的な正味二酸化炭素(CO2)排出量を2030年までに2010年の水準から約45%減少させ,2050年頃に「正味ゼロ」を達成する必要があるという。全世界の削減率と日本鉄鋼業の削減率が同じである必要はないとはいえ,鉄鋼業は産業セクターにおいて電力産業に次ぐCO2発生源であり,日本は世界第2位の粗鋼生産国である。社会から要求される速度にまにあわないのではないか。
実は,これらの技術開発のほかにも,既に使用な技術の範囲でも温暖化対策はやりようがある。鉄源として,高炉で鉄鉱石を還元して製造する銑鉄ではなく,鉄スクラップを用いることだ。その場合,製鋼段階では,電気炉ならば鉄源のほとんどに鉄スクラップを用いることができるし,転炉でも10数パーセントは使用できる。世耕大臣が,この情勢下でスクラップ使用拡大について触れないのは,どうなのか。
世界の製鉄国の中で,生産量第2位の日本とトップの中国は転炉製鋼比率が高く,電炉比率が低い。具体的には,2016年の転炉製鋼比率が世界全体73.8%,日本77.8%,中国93.6%,電炉製鋼比率が世界全体25.7%,日本22.2%,中国6.4%だ(世界鉄鋼協会統計)。正確な数値の入手が困難であるものの,日本と中国では,鉄源として銑鉄の利用比率が高く,スクラップ利用比率が低いことはまちがいない。ここを変化させることで,CO2排出量を抑えることが可能だ。
中国は,違法な地条鋼廃絶によるスクラップ原料の転用という課題が発生したのを機会に,電炉増設を奨励し始めた。もともとの比率が低すぎるとか,急速な転換で電極価格を世界的に高騰させるなどの問題はあるものの,長期的には望ましい方向だ。日本でも電炉製鋼比率の向上,高炉・転炉法でのスクラップ利用比率拡大について,もっと政策的重点を高めるべきではないか。メーカーへの負担が過度にならないように配慮するにせよ,CO2排出規制を,スクラップ利用を有利とする形で設計するのが自然なことではないか。
【世界鉄鋼協会東京大会】世耕経済産業大臣「今こそ過剰生産能力削減を」ORICON NEWS, 2018/10/17(元記事は『日刊鉄鋼新聞』2018年10月17日提供)。
IPCC特別報告書『1.5℃の地球温暖化』の政策決定者向け要約を 締約国が承認,プレスリリース 18-072-J 2018年10月16日,国際連合広報センター。
川端望のブログです。経済,経営,社会全般についてのノートを発信します。専攻は産業発展論。研究対象はアジアの鉄鋼業を中心としています。学部向け講義は日本経済を担当。唐突に,特撮映画・ドラマやアニメについて書くこともあります。
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