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2024年1月26日金曜日

MMF再考

  これまで私は,証券金融がいくら進んでも銀行預金は減少しないと書いて来た。それはおおむね正しかった。例えば会社が銀行からお金を借りるのをやめ,借りていたのと同じ額を,社債を証券会社引き受け経由で発行して資金調達するようになっても,社会全体としては預金は減少しない。社債購入者-証券会社ー調達企業のいずれも,銀行口座に持つ預金を介して取引を行うからである。同じようなことは,電子マネー決済が増えるとか,PayPayで給料を払うとかいう話にも言える。いずれも銀行預金残高を減少させない。

 しかし小さくない例外があった。信託に該当するものである。例えば投資信託の一種であるMMFである。諸個人が低金利の銀行預金を引き出し,より高い利回りを求めて同額のMMF購入にあてたとする。このとき,預金引き出しで発行された現金が,MMF購入に充てられて,信託銀行に預けられる。しかし,預金としてではない。信託銀行の銀行勘定と分離された信託勘定に預けられる。したがい,銀行預金とMMF残高は重複しない。銀行預金が減って,現金発行高が増えるのである。増えた現金発行高がMMF購入高に等しい。投資信託を通貨供給高統計で処理する際にはテクニカルな問題があり,アメリカと日本では扱いが違ったりする。しかし,理論的には,このように理解すべきである。なので,私がMMFを証券金融一般と同じに扱ってきたのは誤りであった(※1)。

 だから,MMFについては,「マネーが銀行預金からMMFにシフトする」と言われていることは,家計による運用先選択としてはもっともである。確かにMMFが増えると預金が減るのである。ただし,通貨論としては現金の動きを忘れることはできない。「銀行預金口座から引き出された現金がMMF購入に買い向かう」のである。

 ここの認識を改めることで,FRBがポストコロナ期に行っている,「超過準備預金への金利引き上げ」と「MMF相手のリバースレポ取引の拡大とその金利引き上げ」の意味がはっきりしてきた。前者は,FRB-銀行‐企業・家計のルートを通した金融引き締めである。後者は預金から外れてMMFに買い向かった現金の回収による金融引き締めである。FRBがMMF相手のリバースレポ取引を通した金融引き締めを行っているという認識は誤りではなく,よりクリアになった。

 ただ,リバースレポ取引が現金回収による金融引き締めだというのは,わかりにくいかもしれない。そこで,銀行預金の減少とMMFの拡大,FRBのMMF相手のリバースレポ取引の拡大によって,通貨供給量と構成がどう変動するかを,次稿で扱おうと思う。

 信託勘定の扱いについてご教示くださった,小林陽介先生に感謝します。

※1 「なぜFRBは,MMF相手のリバースレポ取引を通した金融引き締めを行っているのか」Ka-Bataブログ,2023年4月30日。
https://riversidehope.blogspot.com/2023/04/frbmmf.html


<参考>

小林陽介(2023)「グローバル金融危機後の米国シャドーバンクの動向」『証券経済研究』124,111-136。
伊豆久(2023)「FRB・RRP・MMF—資金余剰下の金利引き上げ—」『証券経済研究』124,43-56。
https://www.jsri.or.jp/publication/periodical/economics/2023

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