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2022年2月23日水曜日

マルクス説の不足と補充の必要性(2)どのように個人的所有を実現し,人間と自然の物質代謝を持続可能にするか:資本主義への道,アソシエーションへの道 第8回

 マルクス説の不足と補充の必要性(2)。政治革命後にアソシエーションの経済を構築しなければならないが,集権的計画経済の失敗を経た今,個人的所有を再建する仕組みとはどのようなものなのかはまだ明らかになっていない。詳細は,実際にやりながらでないとわからないにしても,概要くらいわからないと経済思想として成り立たない。

 もちろん現実には,社会主義運動が強まり,その勢力が政権を取ることがあるとしても,相当な長期間,商品・市場・貨幣を用いた経済計算に依拠しつつ,その弊害を改めていくことにならざるを得ないだろう。そしてその経験が国際的に広がるにはさらに長い道のりとなる。政治転換における「革命」はあり得るとしても,アソシエーションへの経済改造は漸進的なものにならざるを得ない。

 しかし,理論と思想としては,未来のアソシエーションとは,資本主義とどう異なる社会であり経済であるかを構想できていなければならない。とくに,経済学者には有名な問題として,1)商品と市場と貨幣に依拠しない経済計算がどのように可能になるのか,2)生産手段が社会的所有であり,大規模組織による生産が行われる条件下で,個人的所有,大雑把に言えば生産の意思決定の民主化と自己労働に基づく取得をどう実現するのかが難問である。ここではその課題の指摘のみにとどめたし,私自身が答えを発見しているわけでもない。

 もう一つ,近年ではどうしても見過ごせないのは,マルクスが機械と大工業の生産力をおおむね未来社会に継承できるとみなしていることだ。しかし,汚染にせよ地球温暖化にせよ,技術と労働の関係そのものを改編しないと対処できないことは明らかである。生産関係を変えるとともに,生産力の質的性格を変えていかなければ,環境破壊は手遅れになるだろう。だから,具体的にどの分野の技術をどうするか,そのための規制や誘導の手段,その背後にある思想は何かは大事なのである。

 なお,動画で「マルクス自身も『資本論』を書いた後で,もっとエコロジストになったという研究もある」と言っているのは,もちろん斎藤幸平氏のことである。ただ彼の研究については『人新世の「資本論」』だけでなく,主著『大洪水の前に:マルクスと惑星の物質代謝』堀之内出版,2019年を読まないと判断できないので,それ以上触れていない。同書は積ん読状態なので,いい加減読まねばならない(2022/9/9補記。読みました。「斎藤幸平『大洪水の前に マルクスと惑星の物質代謝』堀之内出版,2019年を読んで」Ka-Bataブログ,2022年7月27日)。


資本主義への道,アソシエーションへの道⑦マルクス説の不足と補充の必要性(2)どのように個人的所有を実現し,人間と自然の物質代謝を持続可能にするか



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