マルクス説の不足と補充の必要性その1。これは経済学入門の講義なので,政治的価値判断ではなく経済学として考える姿勢で臨む。またいろいろ言い出すときりがないので,『資本論』第1巻の範囲内で,もっとも根源的と私が思うところを述べる。それは,資本主義的生産様式の発展が,スキルの平準化された労働者階級を生み出すという捉え方の問題点である。
マルクスは「発達した機械の体系」の下での協業を生産様式の最高の発展と見ており,この生産様式が資本主義下で発展すると,小経営をネグリジブルなほどに極小化し,管理・監督者をごく一握りの存在として労働者階級を多数派とし,労働者の特殊なスキルを不要なものとすると考えていた。こうして労働者階級は搾取されるが,それゆえにこそ誰もが平等に経済運営に参加できる新時代が準備されるとも考えていた。生産力と生産関係の捉え方として,ここには過度の単純化,あるいは機械制大工業の作用の過大評価があったと思う。
現代社会において「金持ちとそれ以外」という点では,1%と99%の対立は確かに進行している。しかし,99%の側に階級的・階層的等質化は進行しておらず,その根拠としてのスキルと知識の底上げと平等化が進行していない。現代の技術は,分散的な経営組織を経済の周辺部において生み出してはいるが,いまなおスキルと知識の階層性に対応した形での組織運営が中核的存在である。その一方,小経営は資本主義社会においても頑強に存在しており,その再生産は様々な家族関係によって支えられている(講義のこの箇所では述べなかったが,賃労働者の再生産にも家族関係が作用している)。
私たちは,この現実を踏まえ,技術と労働と組織と家族の関係について,現実の作用は何であり,未来に向かって準備されていることは何であって,したがって現在の人間には何ができるのかを,考えていくよりない。「生産力ーその具体的形態としての生産様式ー生産関係との対応」というマルクスの枠組みは,そうした構想力を呼び覚ます助けになる。それは,マルクスの,ときに古くなっている記述内容とは区別して活用されるべきだ。
資本主義への道,アソシエーションへの道⑦マルクス説の不足と補充の必要性(1)資本主義的生産様式は何をもたらすか
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