経済政策の面から見ると,今回の総選挙で大きな意味を持つのは維新の躍進ではないかと思う。自民がさほど減らず,維新が躍進したことで,経済政策はより新自由主義=小さな政府路線に傾く可能性が高くなったからだ。実は自民党は,小泉内閣の時を除くと新自由主義一本やりではない。アベノミクスは超金融緩和路線であったし,安部・菅内閣ともコロナ禍では財政を拡張するよりなかった。それに比べると,維新の方がはるかに新自由主義だ。他の面はおいておいて,経済政策は維新の方が「右」なのだ。
維新の躍進が経済政策への積極的支持を意味するとは断言できない。むしろ政治の次元で,あまりに実行力と説明がない自民党内閣に対する批判票を集めたのだろう。少し長い目で見ると,前回の選挙で希望の党に集まった保守二大政党への期待が維新に集まったともいえるかもしれない(※)。だが,少なくとも,維新の新自由主義路線は全体として有権者に拒否されなかった。年代別投票先の報道を見ると,維新は30-50代に支持されており,他の党が若年ほど支持される(自民,国民),高齢ほど支持される(立民,共産),どの年代も同じくらい(公明)であるのとはっきり異なっている。これは,ビジネスパースン層に支持されているとみてよいのではないか。ビジネスパースン層の相対的上層は,成長重視と自己責任論,行政の無駄排除を説く維新になじみやすいのだ。
総裁選で分配重視,新自由主義からの転換を言った手前,岸田首相も給付金や子育て支援を口にせざるを得ない。景気がどの程度回復するかも政策を左右する。しかし,時間とともに,経済政策は財政の全体としての引き締め,大企業支援,個人生活の自己責任路線に傾くだろう。
対する立民・共産・社民・れいわは,これに対抗する格差是正,社会的支え合い,経済のボトムアップ路線をはっきり掲げて政権交代まで訴えたが,全体として遠く及ばなかった。実は,2017年総選挙と比べると立民は伸びているので,少し長い目で見れば,格差是正を求める勢力が弱まっているわけではない。しかし,少なくとも強くもなっていない。立民はこの間,国民民主の多くを統合して議員を増やし,その上で経済政策を「左」へとシフトさせた。しかし,その勢力を維持できなかった。
2017年と今回では,経済政策を考えるうえで大きく異なることがある。まず客観的にはコロナ禍に突入して,仕事と収入を失う人が増えたことだ。そして政党の側では,分配重視・格差是正をはっきり掲げて選挙に臨んだことだ。にもかかわらず,この政策が有権者の多数に届かなかったのだ。
では,この格差是正路線を一番届けるべき人々,大まかにいうとコロナ禍で仕事と収入を失った非正規労働者や自営業者の投票行動はどうなっていたのか。両者で違いもあるだろう。自民や維新に多く投票したのか。それとも,投票しなかったのか。その理由は何か。残念ながら今の私にはわからない。しかし,このことの解明が,今後の政治を見通すうえで重要だ。なぜなら,遺憾ながら政治が転換しない限り格差と貧困は拡大し続け,それに苦しむ人の数は増えこそすれ,減りはしないからだ。格差是正勢力が学ぶべきこともここにあると,私は思う。
※今回の選挙だけ見れば「第三極」への期待なのだろうが,むしろ「保守の中で選択肢が欲しい」という期待であろうと私は思う。保守なのは変わらないが,自民党が失政続きの時は別のところに入れたいという人は少なからずいる。
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