技能実習生は27万4225人(2017年12月)。対して,2017年の失踪者が7089人というのは異常すぎる。単純計算で2.6%が失踪していることになる。どう考えても個人の問題ではなく,制度に欠陥がある。
失踪した実習生を対象とした調査によると,失踪の理由(複数回答)は確かに「低賃金」が67.2%で1929人だが,うち「低賃金(契約賃金以下)」が144人(5.0%),「低賃金(最低賃金以下)」が22人(0.8%)いる(『朝日新聞』報道)。そして,「月給10万円以下」が1627人(56.6%)ということは,実際には契約賃金以下あるいは最低賃金以下の実習生がもっといたはずだ。
この待遇なのに,48%は母国の送り出し機関には100万円以上を払っている。明らかにおかしい。正しくない情報に誘われて来日したか,受け入れる企業や農家が約束や法律を破ったか,その両方かだろう。
神戸国際大学の中村智彦教授が聞き取った受け入れ団体職員の話からは,企業側が賃金に加えて,監理団体等にも費用を支払わねばならないことをよく認識していない場合があることがうかがえる。「トラブルになるのは、実習生側は月に10万円しかもらっていない。一方の企業側は20万円近く支払っている。その意識のギャップが、双方の不満になってぶつかることがある」と言う。受け入れ企業も十分に制度を理解してないケースがあるのではないか。
政府は,技能実習が最大5割「特定技能」に変わる見込みとしているが,成り行き任せではだめだろう。「特定技能」にすれば解決する問題,たとえば通常の雇用契約にし,転職の自由があれば解決する問題も確かにあるだろう。しかし,技能実習でも「特定技能」でも共通する問題,たとえば不正確な情報の流通や,言葉の不自由さや法的知識不足につけこんで労基法を守らない雇用主の問題などもある。これらを一つ一つ取り上げ,どうすれば同じ問題を「特定技能」ビザでの労働者で繰り返さないかを徹底審議すべきだ。
私は,まじめに技能実習を実施していて,問題点も熟知している監理団体や経営者の意見を聞きたい。彼/彼女らならば,実習の効果を上げ,コンプライアンスに努めるためにどれほどの手間暇をかけているか,どこに手抜きや誤解の罠が潜んでいるか,どう改善すればよいかを知っているはずだ。
「技能実習生の失踪動機「低賃金」67% 法務省調査 月給「10万円以下」が過半」『日本経済新聞』2018年11月18日。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO3790481017112018EA3000/
「月給数万円、借金100万円…失踪した技能実習生の実態」『朝日新聞』2018年11月20日。
https://www.asahi.com/articles/ASLCM5FP6LCMUTIL01Q.html
中村智彦「5年間で延べ2万6千人失踪 ― 外国人技能実習制度は異常すぎないか」Yahoo!Japanニュース,2018年11月6日。
https://news.yahoo.co.jp/byline/nakamuratomohiko/20181106-00103150
「あと1年かけて,「技能実習」を「特定技能」に転換する計画を作るべきだ:入管法改正による外国人労働者受け入れについての意見」Ka-Bataブログ,2018年11月10日。
https://riversidehope.blogspot.com/2018/11/1.html
川端望のブログです。経済,経営,社会全般についてのノートを発信します。専攻は産業発展論。研究対象はアジアの鉄鋼業を中心としています。学部向け講義は日本経済を担当。唐突に,特撮映画・ドラマやアニメについて書くこともあります。
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