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2018年11月8日木曜日

外国人労働者の海外居住家族への健康保険適用問題は,データに基づく議論と加入者を差別しない対応を

 外国人労働者の,海外に居住する家族に健康保険を適用する件。ここ数日,感情的に騒ぎ立てる議論が多いのは,不適切だ。海外在住家族の扶養が保険財政にどれほどの負担となっているのか,不正受給がどれほどあるのか,データに基づいて議論すべきだ。データゼロの記事で国会議員が「日本の健康保険制度が崩壊する」と叫んだ,たいへんだと論じるジャーナリストもいる。頭を冷やすべきだ。読んだ限り,この記事だけデータがある。

『毎日新聞』2018年11月7日より引用)
「厚労省などによると、健保の海外療養費制度で2016年度に各健保が負担したのは日本人分も含め約20億5000万円。保険診療にかかった費用全体の0.02%にすぎない。」

 まず,騒ぎすぎるのは問題だと言っておきたい。

 その上で,不正受給事件の統計は残念ながらないようだが,個々の事件の報道からみて,起こっているのは事実だろう。それは,慌てずに対応すればいい。ありうる方法は二つ。やってはならないことが一つ。

1.扶養認定の基準と手続きを外国人に対して明確にする。本来の問題は,日本ならば戸籍と非課税証明書ですむところ,各国の制度の違いによって,何をもって証明するかが明確にならないところだ。この問題に携わる専門家のサイトを見ると,現場の対応がばらばらだ。外国人はどんな書類を提出したらよいかわからない,対応する窓口(たとえば年金事務所)も訓練されていない。
 国別に必要な書類を整理し,どのような書類があればよいか明確にして統一的に運用する。また,どのような書類がそろえば認められるかについて各国に明確に通知し,必要な様式での書類の発行を促す。この問題の窓口も設け,国別担当者も明確にしておく。まずは,この方法の実行可能性を追求すべきだ。くりかえすが,基本的問題は外国人が不正をたくらむことではなく,制度が国によって異なることへの対応なのだ。そして,制度の違いに丁寧に対応するのが国際化だろう。

2.どうしてもより厳格な制度とする必要があるなら,国籍に関係なく,海外に居住する家族は扶養に入れないことにする。現在,政府がこの方向の検討を始めている。当然,外国人であれ日本人であれ,海外にいる家族について,等しく扶養に入れないことになる。これでよいかどうか,よく議論すべきだ。

3.一部の報道は,扶養の制限を外国人だけに適用することが争点であるかのように報じている。論外だ。ほとんどの人は,日本人であれ外国人であれ,等しく保険料を払っていて,等しく家族を扶養している。外国人が海外送金をして家族を養っていることはイメージしやすいだろう。だから等しく扱わねばならない。同じ保険料を払わせて,外国人だけ扶養制限をかける差別的制度を作ってはならない。

「外国人労働者 健保適用制限、難しい線引き」『毎日新聞』2018年11月7日。
http://mainichi.jp/articles/20181108/k00/00m/040/134000c

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