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2019年1月16日水曜日

択捉と国後は南クーリル(千島)だが,歯舞と色丹は南クーリル(千島)ではない:ラブロフ外相の発言について

 1月14日のロシアのラブロフ外相発言について。私の意見では,「択捉と国後は南クーリル(千島)だ」というのはロシア政府が歴史的に妥当で,日本政府の主張に無理がある(以下,「政府」を略)。しかし「歯舞と色丹も南クーリル(千島)だ」というのはロシアの主張に妥当性はなく,日本の方が正しい。この四島をまとめて「北方領土」と呼ぶことに合理的な根拠がないという点ではロシアが正しく日本に問題があるが,もともと千島でない歯舞,色丹まで戦後処理の結果と称して占拠していることについては,ロシアの行為が不法であり,返還を求める日本の方がもっともだ。
 四島をまとめて扱う限り,どちらの言うことも,どこかでおかしくなり,力関係と妥協でことを決めるしかなくなる。しかし,スターリン時代に批判的で,かつ経済的に困窮していたエリツィン時代と異なり,現在,ロシア側は,日本に対して譲歩せざるを得ないような状況にはないように思える。

「北方領土はすべてロシアの主権だと認めよ」 ロシアのラブロフ外相が河野太郎外相に迫る(会見全文),Huffington Post日本版,2019年1月15日。

※「北方領土」問題についての私見は以下の通り。
北方領土問題か千島問題か (2016/10/5),Ka-Bataアーカイブ。
プーチンの平和条約呼びかけの問題点と千島列島(北方領土)問題解決の方向 (2018/9/13),Ka-Bataアーカイブ。

2019年1月13日日曜日

Facebookに反政府的投稿のブロックを求めるベトナム政府

 サイバーセキュリティ法がきっかけとなって,ベトナムが中国のようなネット統制,端的には自国のネットを世界から孤立化させる政策をとりそうな気配が表れている。そのような政策は,ベトナムの経済・社会の首を絞めるに等しい。 
 中国には,ネット孤立化という措置ををしたくなる衝動に政府がかられるほどの社会的不安定性があり,そのような措置をする(本来は浪費とも言うべき)資源投入をするキャパシティが国家権力にあり,孤立化のマイナスを補いうるほどの国内市場の大きさがあり,グローバルに用いられる技術やプラットフォームを遮断して国内に代替品をつくりだすことができる技術をもった企業が,幸か不幸か存在する。そのいずれも,ベトナムにはない。
 ドイ・モイ後のベトナムは,中国以上に対外開放に頼って,全方位での友好関係と物的・金融的・人的・情報的交流により,発展してきた。あらゆる意味での国境の遮断は,ベトナム経済・社会の衰退につながると,私は考える。

「情報通信省、フェイスブックの違反を指摘」『ベトジョーベトナムニュース』2019年1月11日。


2019年1月12日土曜日

日本政府は対抗措置の分野を拡大させず,韓国政府は不作為にたてこもらずに,双方知恵を絞るべき

 文在寅大統領記者会見。韓国政府が「日本も韓国も三権分立の国だ。韓国政府は司法の判決を尊重しなければならない。日本政府も判決内容に不満はあっても、『どうすることもできない』という認識を持ってもらう必要がある」という見地であることは確認できた。しかし,そうすると「解決のために互いが知恵を絞るべきだ」というのはどういうことなのか。「知恵を絞る」と言っても,最高裁判決を執行して新日鐵住金の資産を差し押さえたうえでのことだ,と韓国政府が考えるのであれば,日本政府がさらなる対抗措置に出るのは必至だろう。

 日本政府が申し入れている日韓請求権協定に基づく協議,あるいは今後ありうる国際司法裁判所への提訴について,韓国側が応じた場合についてもいろいろ考えるべきことはあるのだが,文大統領の態度から見て,協議にも提訴にも韓国側が応じないのではないかと予想される。韓国政府は「司法の判決を尊重する」とだけ言って,自らの請求権協定解釈を積極的に提示するのを回避したがっているように見える。韓国政治の専門家である木村幹教授が何度も解説されているところによると,韓国政府は積極的に日本を非難したいのではなく,むしろ対日外交を深刻な問題ととらえていないということだ。本日の会見も,日韓関係について全く触れずに終わりそうになったところを,NHKの記者がやや強引に質問して何とか発言を引き出したのだという。だから,「知恵を絞るべきだ」と言っているが,実際には韓国政府では絞りはせずに,ひたすら日本に対応を求めるという可能性がある。

 そうすると,安倍政権・自民党の対応はエスカレートするだろう。既に議論されているように,元徴用工問題をはみ出して韓国に対する関税引き上げとかビザの優遇措置停止などの措置を始めるだろう。しかし,そうすると元徴用工や請求権協定についてきちんと話ができなくなり,国を単位とした日韓の非難の応酬になってしまう。つまり,日韓政府の対話が成り立たず,問題を正面から扱わない結果,国家間の抜き差しならない感情的対立にエスカレートするおそれがある。

 今後,両国政府は表舞台では請求権協定に基づく協議や国際司法裁判所への提訴をめぐってやり取りするようになるだろう。規範論あるいは願望として言えば,対立のエスカレートはいずれも望ましくないことを悟り,様々なルートで本気で「知恵を絞る」ことをして欲しい。少なくとも日本政府には,関税やビザをどうこうするなどして,問題を国家間対立に拡大させないで欲しい。元徴用工問題は元徴用工問題として解決すべきなのだ。また韓国政府は,行政府としての主体的見解を示さず,自らは解決に乗り出さないという不作為は事態を悪化させ,深刻化させるということを認識して,自らも「知恵を絞る」ようにして欲しい。

「韓国ムン大統領 「徴用」めぐる裁判で「互いに知恵絞るべき」」NHK NEWS WEB,2019年1月10日。

2019年1月10日木曜日

定年延長問題があらわにする賃金改革の難しさ

 民間と言い公務員と言い,定年延長問題で明らかになるのは賃金改革の難しさだ。
 公務員の定年延長案に述べられているように,超高齢社会に対応して現行制度をベースにして定年を延長しようとすれば,雇う側の予算制約がある以上,高齢になったら賃金を下げるという制度になる。それはそれで現実的だ。
 しかしこれは,「同じ仕事をやり続けていても,年齢が高くなったら賃金を下げますよ」ということであり,ベクトルは「逆年功」だが,年功による賃金決定を改めて宣言することになってしまう。つまり,「同一(価値)労働同一賃金はやりません」「賃金は職務に対応していません」「むしろ生計費を世帯主が稼いでくるという事情を考慮して,年齢で賃金が決まるのです」と,いまになってわざわざ強調しているのと同じである。
 ところが,こうした慣行を続けることが,大きく見ると超高齢社会を困難に陥れる。人口減少・超高齢社会を持続可能にするためには,新たな働き手として,一度は退職した高齢者と,一度は退職した中高齢女性を想定するしかない。これらの高齢者,中高年女性は,「正社員には生計費に即して年齢で決まる賃金が払われる」という年功賃金の慣行のもとでは,その年齢ゆえに正社員として採用されることが少ない。しかし,非正規として低賃金に甘んじるのでは,家庭の重要な稼ぎ手になることができない。とくに単身高齢者は,長寿ゆえに,また少子化故に,そして未婚率上昇ゆえに,社会に占める比率が増えるから重大な問題だ。
 だから,この問題を解決するには,正規と非正規の区別がなく,職務を指定して人が募集され,その職務の価値によって賃金が決まる制度・慣行が必要だ。「この仕事ができるなら誰でも(性別は当然として)年齢に関係なく同じ賃金で雇います。年功ではさほど昇給もしませんが減給もしません」という制度・慣行だ。年齢差別禁止の法制がこれを後押しする。これならば,いったん退職した高齢者全般と中高年女性も,まともな賃金で再就職できるだろう。
 しかし,正社員のところで「世帯主の生計費で賃金は決まります」という原理を改めて確認してしまうと,そうはいかなくなる。中高年は正社員として採用されない。高齢者は再雇用されても,「定年前の世代と異なり,家族を養うという事情を考慮しなくてよいから賃金が下がることは合理的」と言われてしまう(長澤運輸事件の判決はまさにそのようなものであった)。
 このように考えると,日本の賃金形態はたいへんな矛盾に直面していると言える。一方で,現在の制度・慣行の下で正社員の雇用を少子高齢化に対応させるために,役所を先頭に若いころの年功と高齢になってからの逆年功を実行し,「同一(価値)労働同一賃金」を事実上否定している。その一方,長期的に少子高齢社会を成り立たせるためには「同一(価値)労働同一賃金」に向かわねばならない。両者は真っ向から矛盾している。これは保守,リベラルを問わず,誰が取り組んでも直面する難問だ。


2019年1月6日日曜日

日本政府が日韓請求権協定についての認識を韓国政府に問いただすのが正道だ:「徴用工」裁判原告側が申し立てた日本企業の資産差し押さえに安倍首相が対抗措置の検討を指示した件

 安倍首相は,「徴用工」裁判で韓国の原告側が日本企業の資産差し押さえを裁判所に申し立てたことについて,国際法に基づく具体的な対抗措置の検討を関係省庁に指示したと報道されている(※)

 日本政府は,日韓請求権協定での合意が無視されていると受け止めているのだから,この点を協定の相手である韓国政府に問いただすのが,第一にやるべきことだと思う。韓国政府は「司法は行政と独立だから行政は何もできず判決に従うだけだ」という立場なのか,「最高裁判決の請求権協定解釈は行政府としても正しいと思う」という立場なのか,「最高裁判決は外交上,そのまま放置できないとは考えている」という立場なのか,それを問いただすのだ。まずは二国間で行った方が良いと思うが,ICJに提訴して争うこともありうるだろう。木村幹教授が指摘されるように(※※),そうしたところで話が誰に有利に向かうのかはわからないのだが,それでも,いちばんましな争い方にはなると思う。争うべき法的争点をちゃんと取り上げて争うことになるからだ。

 心配なのは,一方では韓国政府が判決に対するスタンスをあいまいにしたまま司法の差し押さえ手続きを黙ってみている,他方で日本政府がこの問題に本質的に関係ないところで対抗措置を取る,ということだ。安倍首相は「国際法に基づく」という断りを入れているから,そんな変てこな争い方はしないだろうと期待したいところだが,この間の両国政府を見ているとやりかねない。そうなると,双方が全くかみ合わないまま,国民感情の対立が激化していく。それだけはやめてほしいと心より願う。

 なお,直接の当事者である新日鐵住金が問われていることについては,以前に書いた通り(※※※)なのでくりかえさない。

※「『徴用』資産差し押さえ 安倍首相が対抗措置の検討指示」NHK NEWS WEB,2018年1月6日。

※※木村幹「「元徴用工判決」への誤解を正す ICJ提訴は必ずしも有利にならない」Newsweek日本版,2018年12月7日。

※※※「徴用工裁判において新日鐵住金が問われること :政府の協定解釈とは別に,当事者としての事実に関する見解を」Ka-Bataブログ,2018年11月13日。

2018年12月31日月曜日

小田中直樹『フランス現代史』をいただきました

 小田中直樹『フランス現代史』。著者よりいただきました。私は「黄色いベスト」運動を,しばらく「なんじゃ,ありゃ」くらいにしか思っていなかったのですが,小田中さんが『現代ビジネス』に書かれた紹介でことの重大さに気づき,これは『フランス現代史』も読まねばと思いました。まんまとひっかかったというか,この本は,きわめてタイミングよく出版されたわけですね。

小田中直樹[2018]『フランス現代史』岩波書店。

小田中直樹「フランスデモ、怒りの根底にある「庶民軽視・緊縮財政」の現代史」現代ビジネス,2018年12月14日。

「フランスデモの解説記事から,民主政治とマクロ経済政策のジレンマを考える」Ka-Bataブログ,2018年12月15日。



2018年12月30日日曜日

和久峻三氏の訃報に接して:『権力の朝』のこと

 作家の和久峻三氏が10月に亡くなられていたという報道があった。和久氏と言えば「赤かぶ検事」シリーズが有名で,フランキー堺主演でテレビにもなった。私は,最後の1992年放映のシリーズだけ美保純目当てで視ていた。
 だが,和久氏にはよりスケールの大きな怪作も発表している。

『権力の朝』(主婦の友社,1978年。角川文庫,1980年)。



 不穏な文言が連続する目次をご覧いただきたい。



(注。小説前半部分のあらすじの一部を明かします)

 19XX年。経済危機に陥った日本では,国民の不満を巧みに吸収した日本労働党,社会進歩党からなる革新連合が総選挙で多数を占め,保守党との政権交代を実現しようとしていた。そこに,最高裁長官が殺害されるという事件が起き,さらに現首相と副総理が武装集団によって誘拐されてしまう。国会は労働党の党首を新首相に指名したが,内閣総辞職の手続きも天皇による首相任命の手続きもできない。現首相もその代行も不在だからだ。しかも,現首相は誘拐される前日に治安出動を命令していたのだ。新政権の合法的成立を阻止しようとするクーデターか?そして,「権力の朝」に待ち受ける陥穽とは?

 ちなみに革新連合の側の主な登場人物は日本労働党の宮川顕三委員長と不二芳夫書記局長。ここで(笑)や(苦笑)が出る人は中高年であり,若者は「誰だよ,それ?」だろう。

 高校生の私は,この小説を読み,議会制民主主義において多数を獲得すること,政府を掌握すること,そして国家権力を獲得することの三つは,決してイコールではないのだと思い,権力の本質は暴力であるが,それは正当性をまとい,正当性を通してのみ動くものであるのだと思うようになった。誠に安上がりな政治学習であった。すでに廃版だが,アマゾンでは1円で中古本を買える。

補足:1円の時もありますが,めちゃくちゃ高いときもあります。

和久峻三[1980]『権力の朝』角川文庫。




『アジア経営研究』第14,15号を1月1日よりネット公開

 『アジア経営研究』第15号(2009年),第14号(2008年)電子版の入力・点検作業完了。2019年1月1日にJ-STAGEで公開します。これでようやく過去10年分の公開にこぎつけました。以下はラインナップの一部です。

第14号
大会招待講演
長谷川治清「世界のアジア経営研究の動向:テーマと視点」
招待論文
藤本隆宏・葛東昇・呉在烜「東アジアの産業内貿易と工程アーキテクチャ」
統一論題論文
善本哲夫「日本企業のものづくり展開とアジア力」
土屋勉男「アジア自動車産業の競争力と日本メーカーの戦略」
川端望「東アジア鉄鋼企業の比較分析」
湯之上隆「生産能力から見た東アジアの半導体産業の国際競争力」

第15号
大会記念講演
永池克明「グローバル経営の新潮流とアジア」
統一論題論文
秋野晶二「エレクトロニクス産業におけるグローバルな生産構造の変化とアジアEMS企業の成長」
中原裕美子「グローパル開発ネットワークの諸類型とその決定要因」

J-STAGE『アジア経営研究』トップページ。

2018年12月28日金曜日

ファーウェイ排除が日本経済に与える影響

 12月27日に出たファーウェイのプレスリリース「ファーウェイ・ジャパンより日本の皆様へ」(※1)。日本からの調達金額の大きさが注目される。念のため財務省統計と照合したが,2017年のファーウェイの調達額4900億円は,確かに日本の対中輸出の約3.3%になる(※2)。今年は4%になるという同社の試算も嘘ではあるまい。
 半導体の専門家である湯之上隆氏によると(※3),もしファーウェイとの取引が禁止されると,部品,例えばソニーのCMOSセンサ,東芝メモリのNANDフラッシュメモリ,TDKのセラミックコンデンサなどが輸出できなくなる。またファーウェイ向けに台湾のTSMCが行う半導体製造も縮小するので,製造装置ビジネスでは例えば東京エレクトロン,スクリーン,日立国際電気,荏原製作所,日立ハイテクノロジーズが直接に影響を受け,海外製の半導体製造装置に供給している日本の部品メーカーも影響を受ける。さらに,シリコンウエハ,レジスト,薬液,ガスなど日本企業のシェアが高い半導体素材ビジネスも打撃を受けるという。
 間の悪いことに,アベノミクスの下で利益を上げながら手元に現金や金融資産をためるばかりだった日本企業が,2017年から設備投資を伸ばし始め,史上最高金額にまで至らせている(※4)。このタイミングで需要側からショックを受けると危険ではないか。
 米国に追随したり風評や感情によって動くのではなく,事の重大さを理解したうえで証拠に基づいて議論しないと,米中ハイテク摩擦を出発点に日本に不況を呼び込むことになりかねない。

※1「ファーウェイ・ジャパンより日本の皆様へ」華為技術日本株式会社代表取締役社長 王剣峰(ジェフ・ワン),2018年12月27日。
※2「輸出相手国上位10カ国の推移(年ベース)」財務省貿易統計。
※3 湯之上隆「米国によるファーウェイCFO逮捕は、日本企業に“とてつもない大打撃”を与える」Business Journal,2018年12月15日。
※4 「『日経』連続記事『景気回復 最長への関門』に見る日本経済の変化と新たな不安」Ka-Bataブログ,2018年12月7日。

2018年12月27日木曜日

続・松井和夫先生のこと

 不意に思い出したのだが,私は前期課程2年の時,松井和夫先生(日本証券経済研究所大阪研究所主任研究員)の経済学部連続講義「証券市場論」に珍しくちゃんと出席していた。昼食を生協のレストラン「ルポー」でご一緒した時,先生を招へいする窓口になっていらっしゃった鴨池治教授(マクロ経済学,金融論)も別の席においでだった。鴨池教授は,こちらにやってきて松井先生の隣に座り,しばらくお話をされていた。アメリカでトービンのQが1を下回っているためにM&Aが誘発されることなどが話題であった。やがて,鴨池教授はご自身の席に戻られた。と,松井先生はやおら私に向き直り,「君,レーニンはな」と,独占と金融資本について語り始めたのである。なるほど,先生はこうやって,証券業界に求められる博学のエコノミストであり,かつ根底ではマルクス経済学者として,たくましく生きていらっしゃるのだなと思った。
 日本証券経済研究所大阪研究所主任研究員・後に大阪経済大学教授の松井先生は,もっと思い出されるべき研究者だと思う。同じ研究所に同じ時においでだった奥村宏先生が日本企業・企業間関係研究者として広く知られているように,松井先生はアメリカ企業・企業間関係研究者として,もっと知られるべきだと思う。

松井和夫教授略歴・業績目録。この目録掲載の雑誌論文84本には,『証研レポート』に執筆されたレポートは含まれていない。
http://www.osaka-ue.ac.jp/file/general/5125

松井和夫先生のこと(2014/10/19)Ka-Bataアーカイブ。

大藪龍介『検証 日本の社会主義思想・運動1』社会評論社,2024年を読んで

 大藪龍介『検証 日本の社会主義思想・運動1』社会評論社,2024年。構成は「Ⅰ 山川イズム 日本におけるマルクス主義創成の苦闘」「Ⅱ 向坂逸郎の理論と実践 その功罪」である。  本書は失礼ながら完成度が高い本とは言いにくい。出版社の校閲機能が弱いのであろうが,校正ミス,とくに脱...