だが,和久氏にはよりスケールの大きな怪作も発表している。
『権力の朝』(主婦の友社,1978年。角川文庫,1980年)。
不穏な文言が連続する目次をご覧いただきたい。
(注。小説前半部分のあらすじの一部を明かします)
19XX年。経済危機に陥った日本では,国民の不満を巧みに吸収した日本労働党,社会進歩党からなる革新連合が総選挙で多数を占め,保守党との政権交代を実現しようとしていた。そこに,最高裁長官が殺害されるという事件が起き,さらに現首相と副総理が武装集団によって誘拐されてしまう。国会は労働党の党首を新首相に指名したが,内閣総辞職の手続きも天皇による首相任命の手続きもできない。現首相もその代行も不在だからだ。しかも,現首相は誘拐される前日に治安出動を命令していたのだ。新政権の合法的成立を阻止しようとするクーデターか?そして,「権力の朝」に待ち受ける陥穽とは?
ちなみに革新連合の側の主な登場人物は日本労働党の宮川顕三委員長と不二芳夫書記局長。ここで(笑)や(苦笑)が出る人は中高年であり,若者は「誰だよ,それ?」だろう。
高校生の私は,この小説を読み,議会制民主主義において多数を獲得すること,政府を掌握すること,そして国家権力を獲得することの三つは,決してイコールではないのだと思い,権力の本質は暴力であるが,それは正当性をまとい,正当性を通してのみ動くものであるのだと思うようになった。誠に安上がりな政治学習であった。すでに廃版だが,アマゾンでは1円で中古本を買える。
補足:1円の時もありますが,めちゃくちゃ高いときもあります。
和久峻三[1980]『権力の朝』角川文庫。
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