俳優の石橋雅史氏が逝去された。私は彼の良い観客とは言えないが,『バトルフィーバーJ』のヘッダー指揮官がすばらしい悪役だったことは知っている。とくに印象的だったのは第50話「将軍を狙う覆面鬼」。
『バトルフィーバーJ』は「5人のチーム」+「メカ・巨大ロボット」というスーパー戦隊のフォーマットを確立した1979年放映開始の番組だ。その特徴は,上と下の世代,アナクロ権威主義とモラトリアム主義の混合。彼らの所属は国防省であり(防衛省でも防衛庁でもない,れっきとした国防省が日本にある!),上司は倉間鉄山将軍で,戦前派風の剣の達人(演じるのも東映時代劇の雄,東千代之介)。ところがバトルフィーバー隊の若者はバトルジャパン,バトルフランス,バトルコサック,バトルケニア,ミスアメリカと名付けられたインターナショナルで(実際に外国人なのは初代アメリカだけだが),かつ軽めの若者である。遊びすぎたり調子に乗って敵エゴスをなめてかかったりして,鉄山将軍に「馬鹿者!」と怒られる。それが妙にかみ合っている。そして,エゴスは悪の結社というよりカルト宗教。首領サタンエゴスは神で,石橋氏演じるヘッダーは戦闘指揮官であると同時に祭祀であり,怪人を「皇子」「神の子」と敬う。このノリを,バブルはおろか1980年代も来る前に出したのは,なかなか先駆的だったと思う。
そのような中,このエピソードはあからさまに時代劇である。脚本は上原正三。エゴスの指揮官ヘッダーは,邪心流の武道の開祖,鬼一角の門下生であった。そして,鬼一角は,鉄山の師,藤波白雲斎に30年前破門されていたのだ。邪心流の極意は「卑怯も兵法なり」。ヘッダーはその言葉に忠実に鬼一角を殺し,白雲斎をも暗殺して,鉄山将軍を誘い出す。バトルフィーバー隊の若者を「雑魚」と言い切り,鉄山を倒すことのみに執念を燃やす2代目鬼一角ヘッダーと,鉄山との決闘の時が来た!
一切の迷いなく「卑怯も兵法なり」と信じ,憎しみのみに身を委ねるヘッダー。石橋雅史氏の鬼気迫る演技は,39年たっても印象的である。
『バトルフィーバーJ』Amazon Prime Video.
https://www.amazon.co.jp/dp/B01LYI86Z5/
川端望のブログです。経済,経営,社会全般についてのノートを発信します。専攻は産業発展論。研究対象はアジアの鉄鋼業を中心としています。学部向け講義は日本経済を担当。唐突に,特撮映画・ドラマやアニメについて書くこともあります。
フォロワー
2018年12月23日日曜日
登録:
コメントの投稿 (Atom)
大藪龍介『検証 日本の社会主義思想・運動1』社会評論社,2024年を読んで
大藪龍介『検証 日本の社会主義思想・運動1』社会評論社,2024年。構成は「Ⅰ 山川イズム 日本におけるマルクス主義創成の苦闘」「Ⅱ 向坂逸郎の理論と実践 その功罪」である。 本書は失礼ながら完成度が高い本とは言いにくい。出版社の校閲機能が弱いのであろうが,校正ミス,とくに脱...
-
山本太郎氏の2年前のアベマプライムでの発言を支持者がシェアし,それを米山隆一氏が批判し,それを山本氏の支持者が批判し,米山氏が応答するという形で,Xで議論がなされている。しかし,米山氏への批判と米山氏の応答を読む限り,噛み合っているとは言えない。 この話は,財政を通貨供給シ...
-
文部科学省が公表した2022年度学校基本調査(速報値)によれば,2022年度に大学院博士課程に在籍する学生数は7万5267人で,2年連続で減少したとのこと。減少数は28人に過ぎないのだが,学部は6722人,修士課程は3696人増えたのと対比すると,やはり博士課程の不人気は目立...
-
「その昔(昭和30年代)、当時神戸で急成長していたスーパーのダイエーが、あまりに客が来すぎて会計時の釣銭(1円玉)が用意できない事態となり、やむなく私製の「1円金券」を作って釣銭の代わりにお客に渡したところ、その金券が神戸市内で大量に流通しすぎて」云々というわけで,貨幣とは信用...
0 件のコメント:
コメントを投稿