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2019年1月10日木曜日

定年延長問題があらわにする賃金改革の難しさ

 民間と言い公務員と言い,定年延長問題で明らかになるのは賃金改革の難しさだ。
 公務員の定年延長案に述べられているように,超高齢社会に対応して現行制度をベースにして定年を延長しようとすれば,雇う側の予算制約がある以上,高齢になったら賃金を下げるという制度になる。それはそれで現実的だ。
 しかしこれは,「同じ仕事をやり続けていても,年齢が高くなったら賃金を下げますよ」ということであり,ベクトルは「逆年功」だが,年功による賃金決定を改めて宣言することになってしまう。つまり,「同一(価値)労働同一賃金はやりません」「賃金は職務に対応していません」「むしろ生計費を世帯主が稼いでくるという事情を考慮して,年齢で賃金が決まるのです」と,いまになってわざわざ強調しているのと同じである。
 ところが,こうした慣行を続けることが,大きく見ると超高齢社会を困難に陥れる。人口減少・超高齢社会を持続可能にするためには,新たな働き手として,一度は退職した高齢者と,一度は退職した中高齢女性を想定するしかない。これらの高齢者,中高年女性は,「正社員には生計費に即して年齢で決まる賃金が払われる」という年功賃金の慣行のもとでは,その年齢ゆえに正社員として採用されることが少ない。しかし,非正規として低賃金に甘んじるのでは,家庭の重要な稼ぎ手になることができない。とくに単身高齢者は,長寿ゆえに,また少子化故に,そして未婚率上昇ゆえに,社会に占める比率が増えるから重大な問題だ。
 だから,この問題を解決するには,正規と非正規の区別がなく,職務を指定して人が募集され,その職務の価値によって賃金が決まる制度・慣行が必要だ。「この仕事ができるなら誰でも(性別は当然として)年齢に関係なく同じ賃金で雇います。年功ではさほど昇給もしませんが減給もしません」という制度・慣行だ。年齢差別禁止の法制がこれを後押しする。これならば,いったん退職した高齢者全般と中高年女性も,まともな賃金で再就職できるだろう。
 しかし,正社員のところで「世帯主の生計費で賃金は決まります」という原理を改めて確認してしまうと,そうはいかなくなる。中高年は正社員として採用されない。高齢者は再雇用されても,「定年前の世代と異なり,家族を養うという事情を考慮しなくてよいから賃金が下がることは合理的」と言われてしまう(長澤運輸事件の判決はまさにそのようなものであった)。
 このように考えると,日本の賃金形態はたいへんな矛盾に直面していると言える。一方で,現在の制度・慣行の下で正社員の雇用を少子高齢化に対応させるために,役所を先頭に若いころの年功と高齢になってからの逆年功を実行し,「同一(価値)労働同一賃金」を事実上否定している。その一方,長期的に少子高齢社会を成り立たせるためには「同一(価値)労働同一賃金」に向かわねばならない。両者は真っ向から矛盾している。これは保守,リベラルを問わず,誰が取り組んでも直面する難問だ。


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