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2026年10月18日日曜日

Minnesota Mine and Iowa Steel Complex。DRグレードペレットへの期待と懸念

  9月26日,Mesabi Metallics社は,米国ミネソタ州の鉄鉱山とアイオワ州の製鉄所を統合的に開発・建設する180億ドルのプロジェクトを発表した(※1)。鉄鉱石を採掘し,DRグレードの高品位ペレットに加工し,直接還元法で製鉄を,電炉で製鋼を行うとのこと。このプロジェクトにはインドのEssarが出資している。

 このプロジェクトには前史がある。Mesabi Metallicsが開発する鉱山の前身は,1967-85年に操業していたButler Taconiteである。この鉱山会社は,Inland Steel,Wheeling Pittsburgh Steel,Hanna Miningの合弁企業であった(※2)。同社はその名の通り鉄鉱石の一種である低品位のタコナイトを採掘し,ペレットに加工して高炉で使えるようにしていた。しかし1980年代の鉄鋼危機のもとで閉鎖された。当時,アメリカの鉄鋼メーカーが保有する米国内の鉱山からとれる鉄鉱石は,日本や韓国のメーカーが調達するオーストラリア産鉄鉱石に比べて割高であり,垂直統合があだになっていたのであった(※3)

 その後,この鉱山開発は紆余曲折をたどる(※4)。まずMinnesota Steel Industriestと言う会社が開発を試み,続いて2007年にEssar Steel Holdingsがこの事業を買収してEssar Steel Minnesotaによって開発に乗り出す。しかし開発は進まず,同社は破産法Chapter 11を申請して再建手続きに入る。再建の結果,2017年にMesabi Metallicsが設立され,まず鉱山開発とDRグレードペレット工場建設プロジェクトを開始,そして今回の製鉄所建設宣言に至っている。Essarはいまやインド本国の鉄鋼事業は手放しているが(アルセロール・ミタルと日本製鉄が買収した),アメリカで再参入しようというのである。

 鉄鋼業マニアにとっては,いくつかの疑問がわく。まず,上記の経過からして,ミネソタ州のタコナイトからDRグレードのペレットが効率的に製造できるのかどうかである。それが難しいからこれまでの事業がとん挫して来たとも考えられるからである。しかし,米国証券取引委員会(SEC)にアーカイブされているプレFS報告書によると,それを可能にする技術が開発されたようである。具体的には微粉砕、磁気選鉱、空気式逆浮遊選鉱の組み合わせによって,鉄品位を31.7%から70%に高めるというのである(※5)。DRグレードとは67%以上であるから,確かに条件を満たす。

 次に内陸部のアイオワ州に製鉄所を建設することである。まず180億ドル中,150億ドルが製鉄所建設に充てられるというが,この総額があまりに大きい。先ごろ現代製鉄とPOSCOが建設を発表したHPLS(HYUNDAI-POSCO Louisiana Steel)は同じく直接還元ー電炉法の製鉄所であるが,投資額は58億ドルであり,これは大型製鉄所の建設に必要な額として理解できる水準である。150億ドルはあまりに大きく,政治的効果を狙った大きめの発表ではないかと問われる理由がある。また,この製鉄所は,当然に近隣のミネソタ州から鉄鉱石(ペレット)を調達するには有利である。しかし,逆に言えば,輸入鉄鉱石を利用するには極端に不利な立地である。この製鉄所の直接還元設備は,ミネソタ州のペレット工場とともに立ち,ともに倒れる密接な関係にある。ペレットは他にも出荷できるが,製鉄所側には他の調達先を見つけることが難しい。つまり,ペレット工場が製鉄所の運命を左右する位置にあるだろう。もちろん,電炉はスクラップをも原料にできるので,内陸部に立地していても問題はない。

 最後に,このプロジェクトの採算が,どの程度までトランプ政権の製造業保護政策に依存しているかである。Mesabi Metallincsは,もちろんトランプ関税の恩恵を受ける。またこのプロジェクトの鉄鉱山の部分にはアメリカ輸出入銀行が(EXIM)が最大100億ドルの融資を行うという(※6)。

 最後に期待と注意について述べたい。一方において,貧鉱石から高品位のDRグレードペレットが効率的に製造できることは,世界の鉄鋼業にとっても地球環境にとっても重要な意義がある。直接還元鉄ー電炉という製鉄・製鋼技術の利用可能性が広がるからである。直接還元法は鉄鉱石を固体のまま還元するのでスラグを除去できない。次工程の電炉で抜く必要がある。なので,低品位ペレットを用いるとスラグが多くなり,次工程の電炉の効率が低下してしまうという弱点がある。しかし,低品位鉱石からDRグレードのペレットが得られるならば,話は別である。少なくとも天然ガス,やがては水素で還元することによる低炭素・脱炭素製鉄法のの可能性が広がることを意味する。

 他方において,Mesabi Metallicsが保護政策に依拠するところはUSスチールや現代製鉄と同じである。そして,巨大プロジェクトが依拠している鉱山開発がややハイリスクであること,過大な金額での宣伝が政治性を帯びていることが懸念される。今後の行方を注視したい。

※1 Mesabi Metallics Investing $18 Billion to Create a Fully Integrated American Steel Company, Uniting Minnesota Mine and Iowa Steel Complex,Mesabi Metallics, September 29, 2026. https://www.mesabimetallics.com/mesabi-metallics-investing-18-billion-to-create-a-fully-integrated-american-steel-company-uniting-minnesota-mine-and-iowa-steel-complex/

※2 Essar Steel Minnesota LLC (ESML),BEウェブサイト。https://www.bus-ex.com/article/essar-steel-minnesota-llc-esml

※3 川端「アメリカ鉄鋼業のリストラクチャリング」金田重喜編著『苦悩するアメリカの産業 -その栄光と没落・リストラの模索-』創風社,1993年。https://www2.econ.tohoku.ac.jp/~kawabata/paper/ussteelrestructuring.pdf。また,Kenneth Warren, Big Steel: The First Century of the United States Steel Corporation, 1901-2001, University of Pittsburgh Press,2001も参照。

※4 ※2に同じ。

※5 S-K 1300 Technical Report, Summary of PRe-Feasibility Study, Mesabi Metallics Project, Nashwauk, Minnesota, USA, Date: 05-22-2026. https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2087398/000110465926070969/filename9.htm

※6 EXIM Chairman Visits America’s First New Iron Ore Mine in 50 Years as Operations Begin in Northern Minnesota, Export-Import Bank of the United States, September 17, 2026. https://www.exim.gov/news/exim-chairman-visits-americas-first-new-iron-ore-mine-50-years-operations-begin-northern


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