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2026年8月3日月曜日

円安,インフレ,17分野投資,消費税:財政政策をめぐる現局面の整理

1.コロナ禍を境目に,日本は物価停滞局面から物価上昇局面に転換した。

2.輸入品は,そもそもの生産国での食料・エネルギー価格上昇に加えて,円安による上昇が起こっている。これは当然,輸入品に限定した価格上昇であり,日本に住む人の購買力減退を意味する,実質的物価上昇である。原油の投機的上昇のように,短期に元に戻ることもあるが,定着して元に戻らないこともある。いわゆるコスト・プッシュインフレだが,これは厳密な意味でのインフレではない。

3.一方コロナ対策後の景気回復を期に,財政拡張が物価上昇に結び付くようになった。これは,未稼働設備を動かし,失業を減らし,不完全就業者をフル稼働させる限りにおいては,需要が回復した財・サービスから一時的に,また定着すれば実質的に価格が上昇することである。これも厳密な意味でのインフレではない。

4.しかし,需給ギャップが解消されてもなお物価は上昇するようになった。ホームメイドの名目的・全般的物価上昇である。つまり,財政赤字により,社会全体として,一定量の財・サービスにたいして,これを流通させる通貨量が外生的に増加したことによる物価上昇である。私の見解ではこれこそが厳密な意味でのインフレーションである。貨幣的インフレと呼ぶ。比ゆ的には貨幣の空回りと言ってもよい。

5.上記4の意味で「インフレは貨幣的現象」と言うことができる。しかし,2,3のような物価上昇は厳密なインフレとは異なるし,貨幣的現象でもない。交換比率の悪化や需給関係の変化であり,それが生産費用に定着したものであって,実物的現象である。

6.貨幣的インフレ部分だけを取り出せば「悪性のインフレ」と言うほどではないのは確かである。しかし,国民生活からすれば2の「輸入品による物価上昇」+3の「好況による物価上昇」+4の「貨幣的インフレ」の三つが作用しているのだから,その苦痛は大きい。その意味では次第に「悪性の持続的物価上昇」になっていることは確かだ。

7.もし供給能力向上がないままに財政赤字による需要創出が続くと,実質的には需要は生まれず,貨幣の空回りで貨幣的インフレが加速する。これはかなり重大な事態である。

8.ましてイランをはじめとする国際紛争の激化により原燃料価格や食料品価格が実質的に上昇すれば,「輸入品による物価上昇」がひどくなるのでなおさらである。ただし,円安による購買力低下が景気自体を低迷させれば,「好況による物価上昇」要因はなくなる。

9.為替介入で円安を防止することは,投機的動きの抑止以上のものにはならないだろう。

10.高市政権は,財政支出を17分野などの投資と供給力向上双方に結び付け,需要と供給が一度に増えて経済が成長することをめざしている。成長による税収増で財政赤字の拡大も食い止めるという想定である。これにより,国内では「貨幣的インフレ」部分が消える。「好況による物価上昇」は,物価に劣らず賃金も上がればそれでよいと考えているのだろう。円安に対する為替介入も行ってはいるが,これは対処療法であり,解決策が今のところない。インフレなき景気拡大さえ実現すれば,「輸入品による物価上昇」は別に構わないという態度なのかもしれない。

11.ただ高市政権はこれに加えて消費税の一時減税を実行しようとしているので,それによって本当に財政赤字は拡大しないのか,言い換えると通貨供給量を一方的に増大させて「貨幣的インフレ」を悪化させないのか,と問われることになる。

12.だから当面の問題は,「財政支出を17分野などの投資需要拡大と供給力向上双方に結び付け,インフレなき成長を実現する」と言うストーリーが信頼されるかどうか,「そこに消費税減税を加えても,インフレを悪化させないシナリオは成り立つのか」,というところにある。

13.この問題への理解に応じて,まず債券市場を通した長期金利が反応する。財政赤字が拡大して貨幣的インフレが加速すると債券市場にみなされると,長期国債価格は下落し=長期金利は上昇する。これは日本政府の課税能力への不信であるから円安圧力にもなる。すると,かえって景気をくじき,スタグフレーションの様相を呈してしまうおそれがある。また投資主導の景気はそれなりに実現するが貨幣的インフレも加速する,ということもありうる。

14.政権のシナリオに対する代替的方向を野党が出せるかどうかが問われる。政権に批判的な立場も一つだけではなく,様々にありうるが,整合性がある立場は二つである。一つは,財政支出を控えて厳密な意味のインフレーションを防止せよという立場である。この場合,17分野の投資拡大と消費税減税のどちらを控えるのか,両方控えるのかと言う問いへの答えによって,下位分類が生まれる。もう一つは,国民生活支援は財政赤字拡大ではなく再分配強化によって行うという立場である。この場合,累進性強化を通した富裕層への所得税増税や資産課税をどのように,どの程度行えるかが問題となる。

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