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2019年3月9日土曜日

佐竹光彦・飯田泰之・柳川隆編『アベノミクスの成否』勁草書房,2019年の7つの章を読んで

佐竹光彦・飯田泰之・柳川隆編(2019)『アベノミクスの成否』勁草書房。講義に反映させる内容があればと思い,マクロ経済政策をとりあげた1-6章を読んだ。

 どの論文もまちがっているとは思わない。着実に分析を行っていると思う。しかし,私にとってさほど新しい発見はなかった。なぜかというと,1)学説的にはアベノミクスを主導したリフレーション論が理論的及び実証的に妥当であったかどうかを正面から検証していないこと,2)現状分析としては,安倍政権下での景気回復が,なぜ独自の特徴(株価と企業収益が上がり,雇用の総量は増え,賃金は上がらず,コアorコアコア指数で見た物価も上がらない)を持ったのかについて,ほとんど突っ込んでいないからだと思う。正直,分析内容よりも,分析視角があまり鋭いと思えないことに疑問を持つ。

 唯一,深く考えさせられたのは,野田政権の解散表明が投資家の期待を大きく変えて円安への転換をもたらしたという北坂真一教授の指摘だ。飯田泰之教授は,これを期待とその転換の重要性を示すものとしているが,私は,それは分野によると考える。すなわち,アベノミクスにおいて,期待とその転換が直ちに効果を表したのは円安と株高であった。しかし,肝心かなめの財・サービスにおけるインフレ期待は,黒田総裁や岩田前副総裁も嘆くように,頑として動かなかったのである。それは,外国為替市場や株式市場と財・サービス市場では,投機的に反応できるかどうかが異なり,また仮に反応するとしてその速度がまったく異なるからだろう。この点は,参考になったが私の見解を確証させたのであって,変更する必要はない。
 
 細かいところで参考になったことはある。私は黒田総裁就任以来の日銀の金融政策を本質的に連続していると考え,すべて「異次元緩和」と呼んでいたが,形はだいぶ変わっているので,呼称の時期区分は実務の世界に合わせた方が良いかなと考えた。また,財務所の中島朗洋氏や飯田教授が掲げた財政に関する図表は,何点か講義スライドに取り入れた方が良いなと思った。

 マクロ経済政策とは別の話だが,大島堅一教授が執筆された第10章「安倍政権下における原子力政策ー費用負担制度を中心にー」も読んで,これはたいへん勉強になった。自民党政権に戻ってから「原発はコストが安い」と政府が主張するようになった根拠とその薄弱さ,損害賠償費用の内部化が,いつのまにか汚染者負担原則によってでなく,過去に電力料金が安かったのだから東京電力の消費者が負担せよという論理によるものにすりかわっていることが,よく理解できた。


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