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2019年3月29日金曜日

アベノミクスは誰に一番厳しかったか

アベノミクスの個人への効果は,資産保有,就業条件,年齢階層によって異なっていた。給料も資産もない,年金だけで暮らす高齢者にはもっとも厳しかったのだ。

 超金融緩和は,株高を通して資産保有層を大いに潤した。そして労働者に対しては,程度の問題と格差の問題は大いにありながらも,雇用を拡大し,名目賃金を上げた。政府・日銀の目標には全く及ばないが,デフレを終結させ物価を上昇に転じさせた。

 一方,消費税増税は,事実上すべての人の実質的な可処分所得を押し下げる作用を持った。労働者世帯でも賃上げが相殺されてしまった場合も少なくないだろう。

 ここで最大の問題は,さしたる資産を持たず,年金等で暮らす高齢非勤労者層にあった。この層は,超金融緩和の恩恵が全くなく,消費税増税には直撃されたからだ。加えて物価が上昇傾向に転じたことも災いした。この2要因は年金支給額引き上げで相殺されず,実質的な可処分所得は低下した。

 働ける人は働いただろう。現に高齢層の就業は増大している。これらの層にも,非正規の職しか提供されないという問題があった。そして,「働こうとしても無理」で,頼るべき家族もいない高齢者は身動きが取れなかった。生活保護を受ける高齢者世帯数も増加傾向にある。生活保護で補足しきれない人も増えているだろう。

 専門的分析がなお必要とはいえ,高齢者犯罪の増加の背景には,貧困問題があると考えるべきではないか。

「日本の年金生活者が刑務所に入りたがる理由」BBC,2019年3月18日。

データは以下を参照。
『経済・物価情勢の展望』日本銀行,2019年1月。とくに「(BOX3)年齢階層別にみた賃金,可処分所得,消費性向の変化」『経済・物価情勢の展望』日本銀行,2019年1月。

是枝俊悟「消費税増税等の家計への影響試算(2018 年 10 月版)2011 年から 2020 年までの家計の実質可処分所得の推移を試算」大和総研,2018年10月30日。

是枝俊悟「年金生活者の実質可処分所得は どう変わってきたか モデル世帯の実質可処分所得の試算(2011~2017年実績)」大和総研,2018年11月7日。

「生活保護の被保護者調査(平成30年12月分概数)の結果を公表します 」厚生労働省プレスリリース,2019年3月6日。

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