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2019年3月5日火曜日

年功賃金をそのままにした「働き方改革」で「同一労働同一賃金」は実現できるか

 「大学職員に「同一労働同一賃金」はありえるのか?」大学職員の公募情報lite,2019年3月2日
 この記事のライターは大学の職場に独特の事情をとりあげることを意図していたのだろうが,企業一般に存在する問題を言い当ててしまっている。

「契約職員の同⼀労働同⼀賃金を阻んでいる壁が、専任職員に適用されている年功俸給です。」
「専任職員の年功俸給と契約職員の同⼀労働同⼀賃金を併存させようとすると、「30歳と40歳の2名の専任職員と同じ業務を契約職員が担当した場合、どちらの専任職員の給与に合わせるのか︖」というような問題が生じます。」

 その通りだ。これは,大学だけの話ではない。日本の年功賃金を放置したまま「同一労働同一賃金」を実現しようとする「働き方改革」関連法の前に立ちふさがる,最大の壁であり,原理的に乗り越え困難な壁である。一体全体,どうするつもりなのか。

 この記事のライターは言う。
「したがって、契約職員と専任職員の間で同⼀労働同⼀賃金を実現するためには、おそらく専任職員に関する厳密な能力主義給与体系が前提になるのではないかと思っています」。

 まちがいとはいえないが,こういってもおそらく力がない。日本の大企業は,すでに「能力主義管理=職能給」を制度上は実行しているからだ。しかし,「能力」を測る尺度が曖昧模糊としているために,現実にはジェンダーバイアス付き年功賃金となっている。ここでジェンダーバイアスとは,露骨に女性を劣等視する差別だけではなく,「育休なんか取るやつは会社に貢献する能力がない」という類の,事実上女性を不利な立場に追い込むことを含む。

 だから,同一労働同一賃金を実現しようとしたら,必要なのは能力主義ではなく,職務給だ。ポストそのものに値段をつけ,誰がやろうとも同じ賃金を払う。もちろん,成果査定によって差はつくだろうがベースは同じだ。これならば,30歳と40歳の専任職員の給与は同じなので,冒頭の悩みはない。専任社員と契約社員との職務の価値(肉体的・精神的負荷,付加価値への貢献,難易度,必要な訓練費用,責任の度合いなど)の同一性・差異性だけで考えて,つまりは同一(価値)労働同一賃金の原則によって賃率を設定できる。

 日本の正社員の賃金形態を一気に職務給に飛び移らせることは難しい。しかし,年功賃金のままで契約社員や多様な非正規社員との間での同一労働同一賃金を図ることは,もっともっと難しい。

 この難題は,現在厚労相から提出されている「同一労働同一賃金」ガイドライン(※)では解決されていない。このままでは企業の現場は混乱し,「働き方改革」は,基本給の同一労働同一賃金については絵に描いた餅になるだろう。どうしたらよいのか。政府には,関連法案が完全適用される来年4月までに方策をねり,より具体的な法解釈を整える責任がある。

「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(同一労働同一賃金ガイドライン),2018年12月30日。

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