選挙公約の経済政策に対する考え方をおおまかに。与党・野党とも分配を重視するのはいいのだが,いくつか注意すべき,また投票に当たって留意すべき点があると思う。
まず,コロナ禍で誰が苦しんできたか。画像中の表は橋本健二教授が作成されたものだが,コロナ禍の経済的影響は不均等であり,誰よりも非正規労働者と自営業者が苦境に立っている。救済は,社会階層としてはこの二つの部分,所得水準では低所得者に重点を置かねばならない。
次に,これまでのコロナ対策はどう作用したか。低利・無利子融資等の金融支援,給付金などの財政支援は確かに家計・企業を救済する作用を持った。しかし,とくに一律10万円の給付金と企業への優遇融資は,家計と企業に貯蓄(主要部分が現預金)を積み上げる一方で,真に苦境に陥っている家計・自営業者を救済できていないので,十分に効果的で公正とは言えない。そして企業は,金融・財政支援を受けても,まだ投資をためらっている(「コロナ対策は何をもたらしたか:信金中央金庫地域・中小企業研究所のレポートを手掛かりに」2021年5月16日投稿。)。
これらを踏まえると,分配を重視する緊急対策では,1)苦境にある低所得者に支援が届くことが必要であり,2)財政支出を消費や投資に直結させねばならず,貯蓄積み上げに帰結させないことが大事である。給付金や減税や助成金が,低所得者,非正規労働者,自営業者に届けられる分には,その効果は十分見込める。しかし,昨年から手元現預金を積み上げている高所得層や,コロナの直撃を受けてない業種の企業にお金を渡しても,経済全体への効果は限られる。
とすれば,いま各党から提案されている減税や給付金については,以下のことに注意して評価しなければならない。
所得税減税は,高所得層ほど1人当たり減税額が大きいという意味で恩恵が大きい。低所得者は逆で,課税対象でないほどの低所得者だと減税額はゼロになってしまう。しかも,高所得層ほど減税分を支出せずに貯金・貯蓄に回すので,需要への効果は限られる。
その意味では,消費税減税の方が,減税額の大小については所得税と同じであるものの,低所得層にも効果が及ぶという点ではベターだ。
対して,一律給付金は,どの所得層にも同じ金額という意味では誰にも等しく恩恵がある。しかし,低所得層の生活を支えるのに十分なほどの金額を一律支給すれば,高所得層は,同じ金額を得ても昨年と同じく消費せずに貯蓄を増やすだろう。その分はすぐには需要にならずに眠り込んでしまう(これは恒久的なベーシック・インカムの是非とは別の話だ)。
つまり,減税と給付金を,いま無造作に行ってもうまくいかないので,組み合わせ方を工夫するか,累進性を持たせるなどの傾斜をつけることが必要になる。与野党とも,この点をどこまで考えぬいているのかが問われる。
続いて財政負担の問題。いずれにせよ緊急対策では財政赤字をを増やさざるを得ないし,それ自体は円建てである限りは問題ない。しかし,貯蓄に回ってしまったり,雇用と所得を改善せずに偏った需要を生み出すような財政支出は無駄であり有害である。無駄に赤字をふくらませれば,悪性インフレとバブルへの圧力を生み出す一方で,政府がそれに対抗する力を失うからだ。
少しややこしいが,インフレと言っても,景気回復を反映するインフレならば問題ない。低所得層がひといきついてのボトムアップで景気が回復し,先行き不安を解消した企業が生産と雇用を拡大し,それで価格と賃金がともに上がるならばいい。しかし,財政がおかしなところに作用すると,悪性インフレや,最悪スタグフレーションになりかねない。原材料価格高騰だけが実現してしまい消費が伸びない「価格革命下のスタグフレーション」(高齢者は70年代をご記憶だろう)や,株価バブル,住宅バブルなどになっては困る。これらが起こると,政府は拡張も引き締めもできなくなり,政策が綱渡りを強いられる。なので,景気回復は,トリクルダウンでなく,確実なボトムアップにすることが必要で,そのためにも低所得者重視の方がよい。ボトムアップになるような政策であるかどうかが肝心だ。