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2019年4月23日火曜日

「ジョブ型」通年採用は「仕事に即した処遇」と「年齢不問」を意味することは認識されているか:「採用と大学教育の未来に関する産学協議会の中間とりまとめと提言」を検討するにあたって

 経団連と,就職問題懇談会座長,国大協会長や私大連会長などがつくる「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」が中間とりまとめと共同提言を発表した。全体として,前向きに検討すべき点を多く含んでいるが,現時点でどのメディアも報道していない,「もしかして忘れてない?大丈夫?」という点が二つあるので,まずそれだけ大急ぎで述べておきたい。

1.「ジョブ型採用」の意味
 「今後の採用とインターシップあり方に関する分科会」の中間とりまとめは,「ジョブ型採用」を「新卒,既卒を問わず専門スキルを重視した通年での採用,また留学生や海外留学経験者の採用」としている。

 やや,ずれている。

 「ジョブ」型採用とは,技能=skillでなく,job=職務を指定した採用だ。つまりは,範囲はいろいろあるとしても,やるべき仕事を指定した採用だ。やるべき仕事を指定しているから,それに必要な専門スキルによって選考するのだ。それがわかっているならいいのだが,どこにもそう書かれていないので,不安を覚える。
 スキルを指定して採用したあげく,どの仕事に就けるかは白紙で会社が決めて,協調性と努力主義を評価しながら年功的に処遇するという,今までと同じ方式ではどうしようもない。
 普通に考えれば,ジョブ型で採用すれば,ジョブ型で処遇するのが整合的だ。すなわち,1)ジョブ=職務のグレードと職務の成果に対応した給与とし,2)ジョブが変わらない限り昇進や配置転換や転勤はなく,3)ジョブが存在してそれを当該労働者が正常に遂行できる限り雇用され続けるが,4)ジョブが消滅する場合は解雇される。現在,日本企業の大半では,そのような人事管理を正社員に対して行っていない(非正規には,差別的低賃金で,かつ3)を除いて適用している)。ジョブ型の処遇に踏み込むつもりはあるのだろうか,ないのだろうか。

2.「ジョブ型採用」は年齢差別禁止
 中間とりまとめも共同提言も,「新卒,既卒を問わず」とは書いているものの,基本的に大学生や,大学を卒業してまもない者しか念頭に置いていない文章になっている。

 大丈夫か。

 多くの人が普段忘れているが,わが日本には雇用対策法により採用の年齢制限禁止が規定されている。「ハードな重労働!高齢者には到底無理! 40歳以下で募集します」も「若者向けの洋服の販売スタッフなので30歳以下で募集しても問題ないよね?」も「社長が40歳、その他のスタッフも皆30代以下。業務上指導しづらいし、中高年齢者は浮いてしまうので、30代以下しかとれない!」も「PC操作や夜間業務もたくさんスキルや体力面で、高齢者は不安なので若い人を募集」も,採用条件に年齢を入れたら最後,すべて違法なのである(「その募集・採用。年齢にこだわっていませんか?」厚生労働省リーフレット)。

 ただ,「長期勤続によるキャリア形成を図る観点から、若年者等を期間の定めのない労働契約の対象として募集・採用する場合」は,1)対象者の職業経験について不問とすること,2)新卒者以外の者について、新卒者と同等の処遇にすることを条件として例外的に許されているのだ。だから,「20○○年3月大学卒業見込みの者」に限った新規学卒採用が行えるのだ。

 「ジョブ型採用」を行った場合,この例外規定は適用されるだろうか。まともに考えれば,されないと思う。職務に対応した「専門スキル」を基準に採用し,通年で採用し,新卒,既卒は関係ないとする以上,年齢を制限できないと見るのが理屈だろう。「ジョブ型採用だけど若年層に限ってくれ」というのでは,理屈が立たず,中高年男女から差別だという訴訟が頻発するだろう。

 とすると,「ジョブ型採用」の場合,新卒者は,少し年齢が上の既卒者のみならず,数多くの,あらゆる年齢の,転職・中途採用希望者と,専門スキルで競争しなければならないのだ。

 それが良いとか悪いとか言っているのではない。制度の整合性を保とうとすれば,そうならざるを得ないのだ。

 経団連側は,またもっと心配なのは大学側は,さらにそれ以上に心配なのは報道しているマスメディアは,上記2点を分かったうえで「ジョブ型採用」の拡大について論じているのだろうか。心配である。

 皮肉でなく,この一文が杞憂であって,まともに議論が深まることを希望する。

採用と大学教育の未来に関する産学協議会「採用と大学教育の未来に関する産学協議会 中間とりまとめと共同提言」(2019年4月22日))経団連ウェブサイト。

<関連投稿>
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