フォロワー

2019年4月10日水曜日

ベトナムは業績不良の国有企業に対処できるか?:TISCOの経営危機

 ベトナムの国有鉄鋼企業TISCO(タイグェン・アイアン・アンド・スチール)が株主に送った手紙によれば,同社は「もし政府,銀行その他の機関によって救済されなければ倒産に至り得る財務危機に直面している」。VnExpress Internationalの記事によると自己資本比率は18%,債務1.94兆ドン(8360万ドル)のうち不良債務が8520億ドン(3670万ドル)。同社はうち46%は正常化可能というが,たとえ本当でも自己資本不足と54%は残る。記事にもある通り,TISCOの財務危機の原因は2007年に開始された2期工事の延滞・未完成と費用膨張である。建設中だった高炉などの設備は雨ざらしになっている。

 これは,私が1年半前にRIETIのペーパーで論じたTISCOの問題が,まったく解決に向かっていないことを意味する。

 TISCOは,もともと国有の公社であったVNスチールが65%を保有していた連結子会社であった。その経営危機は2014年には表面化しており,いったんは国家資本投資会社が1兆ドン(4310満ドル)の資本を注入して救済したものの,その後,財務省の指示によってこの株式をVNスチールに買い戻させてしまった。2017年第2四半期にはすでに自己資本比率が19%に落ちていた。

 ペーパーを書いた後にわかったことは,VNスチールはTISCOの債務保証者であるということ,商工省が国有企業の不良債務について公的資金を投じないという方針をとっていたことだ。VNスチールにも債務を肩代わりする力はない。しかし,政府も公的資金は注入しない。買収する気のあった民間企業にしても,そのような負担はご免であろう。そして,銀行が債権棒引きに応じる気配もない。それでは,誰がどのようにTISCOを破たん処理and/or再建し,その過程で誰がどのように損失を被るのか。誰も火中の栗を拾わないままにずるずると状態が悪化している。

 ことはTISCOだけにとどまらないのではないか。記事はTISCOをベトナム最大の鉄鋼企業の一つと書いているが,その生産規模はせいぜい鋼材100万トンであり,すでに外資企業のフォルモサ・ハティン・スチール(FHS)や民営企業のホア・ファット・グループ(HPG)に追い抜かれている。もしベトナム政府が,100万トンクラスの国有鉄鋼企業の破たん処理をうまくできないのであれば,他にも数ある国有企業の改革・再編・民営化・破たん処理・再建・清算の成否についても,大きな疑問符が付くだろう。

Anh Minh, Vietnam state steel company faces bankruptcy, VnExpress International, April 8, 2019.

川端望(2017)「ベトナム国有鉄鋼企業の衰退とリストラクチャリング」RIETI Discussion Paper Series, 17-J-066, pp.1-41.



0 件のコメント:

コメントを投稿

大藪龍介『検証 日本の社会主義思想・運動1』社会評論社,2024年を読んで

 大藪龍介『検証 日本の社会主義思想・運動1』社会評論社,2024年。構成は「Ⅰ 山川イズム 日本におけるマルクス主義創成の苦闘」「Ⅱ 向坂逸郎の理論と実践 その功罪」である。  本書は失礼ながら完成度が高い本とは言いにくい。出版社の校閲機能が弱いのであろうが,校正ミス,とくに脱...