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2018年10月9日,日本経済団体連合会(経団連)は2021年度以降入社対象の「採用選考に関する指針」(いわゆる「就活ルール」)を廃止することを決定し,さらに12月4日に「今後の採用と大学教育に関する提案」(以下「提案」)を発表した。この経団連の動きに対して,ここでは2点述べたい。
「青田買い」激化のおそれとその弊害
第一に,「就活ルール」廃止は,大学教育と学生生活を今以上に攪乱するおそれがある。これまでも経団連の「就活ルール」が形骸化し,そこで定められた期日以前から採用活動が行われて来たことは公然の事実である。その廃止は現状を追認しつつ公認する作用があり,企業による学生の早期囲い込みはさらに激しくなる可能性がある。
より広く見ると,このような青田買いは,個別企業の短期的利益にはなっても,日本社会の人的資源涵養,有効活用にはならないという問題がある。日本の新規学卒採用は,在学中の卒業予定者だけを対象にして,職務と勤務地を明示せずに「入社」させるものであり,濱口桂一郎氏が定式化したメンバーシップ型雇用の入り口である(濱口『若者と労働』中公新書ラクレ,2013年他を参照)。選考時に学生に求められるのは,各社が各様に定める「潜在能力」であり,実際には「協調性」を含む「人格」が重視される。選考活動で学生は人格を問われ,落とされるたびに人格を否定されて衝撃を受ける。これまで,このような活動が企業にとって有効だったのは,「入社」させた従業員の多くを定年まで長期雇用し,忠誠心と技能の混合物を企業内訓練で育成することで,企業成長に貢献させることができたからである。ところが1990年代末から,経済停滞による雇用コストの相対的上昇,専門人材獲得の困難,女性の活躍の困難など様々な問題が噴出し,このような雇用管理の有効性が低下しているのである。
大学の立場からの改革提言を
第二に,「提案」は,企業の立場から日本の労働市場を改革しようとするものであることに注意しなければならない。「提案」は,「新卒⼀括採⽤のほか、卒業時期の異なる学⽣や未就職卒業者、留学経験者、外国⼈留学⽣などを対象に、夏季・秋季の採⽤・⼊社なども柔軟に⾏うべき」であり,「新卒・既卒や⽂系・理系の垣根を設けない、通年採⽤・通年⼊社等の多様な選択肢を設けていく必要がある」と述べている。そして,この構想の実現のために「⼤学と経済界が直接、継続的に対話する枠組み」の設定も提案している。新規学卒採用をやめはしないものの,その比重を減らしていこうという提案である。その分だけ,何らかの形で職務や勤務地を特定したジョブ型雇用と,新規卒業予定者に対象を限定しない採用を増やしていこうというのである。
経団連の目的は企業利益のための多様な人材,専門的人材の獲得であるが,その提案は低成長・人口減少・超高齢化という社会の変化に対応している面がある。この社会に残された労働力の給源は,再就職を目指す女性や高齢者である。現在の雇用慣行では,これらの人々は非正規としてしか採用されない傾向が強い。日本社会の持続可能性のためには,性別はもちろん,年齢や,初職,転職,再就職の区別のない雇用管理を拡大することが必要である。このことは社会的にも明らかであるが,企業の立場からも人的資源の幅の制約を突破する方策として唱えられているのである。
ジョブ型採用が拡大した場合の大学への影響は複雑である。新規学卒採用に特有の青田買いや,「就職浪人」が受ける極度に不利な扱い,就活での人格否定がなくなることは望ましい。他方,ジョブ型の採用においては,学生は全年齢層を含む競争に加わらねばならず,「潜在能力」でなく明確な職業的能力を問われることになるので,不利な立場に立たされるおそれがある。そのことは,大学に対する職業教育の要請に結びつく。
「提案」の実行に日本企業がどこまで踏み出すかは容易に予期しがたく,「就活ルール」廃止が企業の身勝手な青田買いの激化に終わる危険もある。大学はこのことに十分な警戒を払わねばならない。と同時に,大学と労働市場の結びつき方について,大学自身の立場から提言することが求められているのである。
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「大学の学力問題と労働市場 (2017/7/4)」Ka-Bataアーカイブ。
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