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2019年2月5日火曜日

公的資金による2頭のクジラが株価を支えきれなくなる時

 GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の2018年度10-12月期の運用実勢が14兆8039億円の赤字で,四半期では過去最大出会ったことが話題になっている。ここで考えねばならないのは,2014年にポートフォリオを見直して,内外株式の比率を高めたことだ。

 一方で超低金利のもと(それ自体,政府・日銀が誘導しているのではあるが),年金資産の運用を債券だけで行っていては運用益が稼げないことは確かである。だから,株式の資産組み入れ比率をある程度まで高めること自体は,やむを得ない。この点,株式投資イコール投機だから年金積立金をつぎ込むな的なGPIF批判をするつもりはない。

 しかし,現在GPIFが行っている株式投資が,どれほど健全なのかという問題は確かにあり,検討しなければならない。

 一つは,安倍政権下で定められた,国内株式25%という基本ポートフォリオ構成が,本当に適切なのかどうかだ。25%と定めてしまえば,乖離率は認められているとは言え,国内株式にどれほどの資金をつぎ込むかはある程度決まってしまう。つまり,年金積立金が増える限り,GPIFは国内株式市場の確実な買い手になる。

 もう一つ,GPIFの行動を株式市場全体の中で評価し,また安倍政権下の金融政策・資本市場政策の中でGPIFを評価する必要がある。具体的には,GPIFに加えて,日銀が超金融緩和を続けるためにETF(指数連動型上場投資信託受益権)を大量購入するという,事実上の株式投資を行っていることを評価する必要がある。日本の株式市場には,公的資金で確実に買ってくれるGPIFと日銀という2頭のクジラがいるのである。

 では,GPIFと日銀は株式市場でどのような役割をはたしているのか。他の投資家との関係はどうなっているのか。それを明らかにするために,金額で見た投資部門別株式売買状況の推移に,日銀の年次ETF購入額を重ねた図を示す。本来の売買状況データでは,日銀ETFは「自己取引」に入っている。GPIFの購入・売却額は残念ながらわからない。分類の中では「信託銀行」に含まれている。


 ここから,以下のことが言えるのではないか。
(買)日銀ETF購入が株式市場に与える影響は大きいし,次第に強まっている。
(買)GPIFの影響の度合いは証明できないが,「信託銀行」は2014年以後買い越している。
(買)事業法人が買い越している。自社株買いの反映と思われる。
(売)海外投資家が日本株を大量に買ったのは2013年だけである。あとは年によって違うが,売り越しの方が激しい。
(売)個人は一貫して売り越している。

 GPIFの影響力はフローの売買ではわからないので,数字がわかるストックの方を見てみる。GPIFは,2018年12月末で国内株式を時価評価で35兆9101円保有してる。おおざっぱな比較方法だとわかっていて言うが,これは国内上場株式時価総額の582兆6705億円に対して,6.16%保有していることになる。1投資家で6%であり,その存在感は大きい。

 アベノミクスの成果が喧伝されているが,外国人も個人も日本の株式を評価せずに売っている。その時に,GPIFと日銀という公的資金のクジラで買い支えてきたのではないか。これは,クジラの意図がどうあれ(日銀は,そもそも株式運用益を目的としてETFを買っているのではあるまい),市場実勢とかけ離れた投機ではないのか。それも,公的資金を用いた投機ではないのか。

 それでも,株価が支えられている間は,さしあたり誰も損をしないかもしれない。しかし,無理な買い支えが限度に来て株価が下落するとき,損失は2頭のクジラにかかり,公的資金にかかる。つまりは年金資産に損失が出るのであり,日銀のバランスシートを毀損する。これは,株式市場としても,公的資金のあり方としても不健全ではないのか。

<データ注>
・表は,日本取引所グループ「投資部門別株式売買状況」および日本銀行「指数連動型上場投資信託受益権(ETF)および不動産投資法人投資口(J-REIT)の買入結果」より作成。
・GPIF株式保有額はGPIF「平成30年度第3四半期運用状況(速報)」より。
・国内上場株式時価総額は,日本取引所グループ「市場別時価総額」より。



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