ゴーン事件について,『法廷会計学vs粉飾決算』や『粉飾決算vs会計基準』の著者,細野祐二氏の意見を聞きたかったので,ちょうどよかった。ゴーン元会長の容疑についての,細野氏の意見は以下の通り。詳細な根拠や,今後の見通しについては,論文実物にあたられたい。
*先送り報酬50億円は,発生主義の原則に基づく客観評価を行うと,有価証券報告書において開示すべき役員報酬には該当しない。
*40億円のSAR報酬は支払いの蓋然性がなく,有価証券報告書において開示すべき役員報酬には該当しない。
*オランダの子会社ジーア社から得た役員報酬は,連結役員報酬に該当しない。
*ゴーン元会長が日産自動車から得ていた高級住宅,家族旅行の費用等は巨額だが,有価証券報告書虚偽記載罪と何の関係もない。うち,姉や知人に対する数千万円の報酬は,日産自動車に対して役務提供がないまま受領している場合には問題になるが,報酬受領者の弁明を聞くことなく,一方的に報道しているのは適切でない。
*12月10日にゴーン元会長を2016年3月期から2018年3月期までの有価証券報告書虚偽記載の容疑で再逮捕したが,この3事業年度の取締役社長は西川廣人社長である。西川社長を逮捕せずゴーン元会長だけ逮捕するのはおかしい。
*個人資産管理会社が新生銀行と契約していた通貨スワップ契約を日産自動車に付け替えたことが特別背任とされる件は,日産自動車の決算で評価損は認識されてもおらず,成り立たない。
*「信用状」を新生銀行に差し入れたサウジアラビアの実業家が経営する会社の口座に販売促進費を振り込んだことが特別背任にあたるとされる件は,この実業家が,実際に日産のために働く会社の会長であるために特別背任は成り立たない。
私は,ゴーン氏に特定したことではないが,高額報酬を批判する投稿を何度かしてきた。しかし,ゴーン氏の行為が犯罪に当たるのかどうかは別問題だ。本件は引き続き注視したい。
細野祐二(2019)「日産ゴーン事件の研究」『世界』2019年3月号,岩波書店,58-72。
川端望のブログです。経済,経営,社会全般についてのノートを発信します。専攻は産業発展論。研究対象はアジアの鉄鋼業を中心としています。学部向け講義は日本経済を担当。唐突に,特撮映画・ドラマやアニメについて書くこともあります。
フォロワー
2019年2月13日水曜日
登録:
コメントの投稿 (Atom)
ジェームズ・バーナム『経営者革命』は,なぜトランピズムの思想的背景として復権したのか
2024年アメリカ大統領選挙におけるトランプの当選が確実となった。アメリカの目前の政治情勢についてあれこれと短いスパンで考えることは,私の力を超えている。政治経済学の見地から考えるべきは,「トランピズムの背後にジェームズ・バーナムの経営者革命論がある」ということだろう。 会田...
-
山本太郎氏の2年前のアベマプライムでの発言を支持者がシェアし,それを米山隆一氏が批判し,それを山本氏の支持者が批判し,米山氏が応答するという形で,Xで議論がなされている。しかし,米山氏への批判と米山氏の応答を読む限り,噛み合っているとは言えない。 この話は,財政を通貨供給シ...
-
文部科学省が公表した2022年度学校基本調査(速報値)によれば,2022年度に大学院博士課程に在籍する学生数は7万5267人で,2年連続で減少したとのこと。減少数は28人に過ぎないのだが,学部は6722人,修士課程は3696人増えたのと対比すると,やはり博士課程の不人気は目立...
-
「その昔(昭和30年代)、当時神戸で急成長していたスーパーのダイエーが、あまりに客が来すぎて会計時の釣銭(1円玉)が用意できない事態となり、やむなく私製の「1円金券」を作って釣銭の代わりにお客に渡したところ、その金券が神戸市内で大量に流通しすぎて」云々というわけで,貨幣とは信用...
0 件のコメント:
コメントを投稿