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2021年2月10日水曜日

「休業手当」とそれが受け取れない労働者への「休業支援金・給付金」という方式について

 現在国会では,これまで中小企業の労働者のみを対象としていた休業支援金・給付金を大企業の非正規労働者に拡大する件が議論されている。緊急措置としてこの拡大を行い,支給時期もできる限りさかのぼる方がよいと思う。しかし,この問題の背後には,かなり根の深い問題があることも考えておかねばならない。つまり,どうして「休業手当」と「休業支援金・給付金」という二重の手立てが必要になるかということだ。

 新型コロナに対応する政府の雇用政策の基本ツールは雇用調整助成金である。これは,企業が労働者を休業させ,休業手当を支給した場合,事後にその負担の一定割合(最大100%)を政府が補填する制度である。これにより休業した労働者と休業させた企業を支援するとともに,解雇を防止するものだ。

 しかし,休業手当は,ほんらい「使用者の責に帰すべき事由」による休業についてのみ支給される。不可抗力による休業の場合,企業には支給する義務はない。では,新型コロナウイルス対策で政府・自治体の要請を受けて営業を縮小し,それに伴って労働者を休業させた場合はどうかというと,支給義務があるかないかは明確ではなく,ケースバイケースなのでである。しかし,これで休業手当を支払わない企業ばかりになっては,到底対策の実効性がない。そのため現在は「労働基準法上の休業手当の要否にかかわらず、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主に対しては、雇用調整助成金が、事業主が支払った休業手当の額に応じて支払われます」(厚労省Q&A)という措置が取られている。しかし,これは経済的に苦しくなった企業が休業手当を支給すれば補填しますよ,ということであり,やはり休業手当支給を義務づけるものではない。

 このように企業に対する休業手当支給への動機付けが弱く,かつ雇用調整助成金の手続きが複雑であること,さらに事後的補填であるため一時的には現金流出が生じることから中小企業には負担が重く,結果として休業手当を支給しない企業も相当あると報じられている。これが労働者の減収を招いている。

 これをカバーするために,中小企業労働者を対象として政府から直接支給されるのが,昨年整備された休業支援金・給付金である。中小企業の中には,休業手当を支給しないケースが多いこと,それは自体はやむを得ないことと認めて,この補完措置を取ったのである。

 今回の支給対象拡大問題は,休業手当不支給が,非正規に対する差別や経営者の認識不足によって先鋭化したために生じたものと言える。経営者がシフト勤務のパートタイマー/アルバイトのシフトを減らした場合について,休業に当たることを認識せず,休業手当を支給していない場合が多々あることが判明したのである。休業手当を正規のみ,あるいは労働日が明確な労働者のみに支給し,シフトが減少したシフト勤務労働者に支給しないことは差別的取り扱いであり,違法の疑いが濃い。しかし,この違法をすべて取り締まることの困難から,今回,大企業のシフト制非正規労働者(シフト制,日々雇用,登録型派遣)に対しても休業支援金・給付金を支給する政府方針が出されたのである。これはこれで改善であるが,野党が要求するようにできるだけさかのぼって支給対象とすべきであろう。また,差別的不支給は労働監督行政の強化によってなくしていくべきだろう。

 しかし,そもそもの制度としての問題は残るように思う。休業による減収に対する支援措置は,1)まず企業による休業手当と政府によるその補填,2)それでカバーできない部分は政府からの直接支給という二段構えになっている。しかし,休業手当は上述したように,そもそも企業の責による休業について支払うものであるから,コロナウイルス感染症流行という,企業の責任と言えない事態に直面しての休業・減収を補償する措置としてなじむものではない。この観点からすれば,初めから政府による直接支給で労働者を支援すべきとした方が,考え方は整合するようにも見える。具体的には,激甚災害の際に用いられている雇用保険の「みなし失業」という考え方を用い,休業状態でも失業給付を受け取れるようにすべきであったのかもしれない。この方式は昨年4月に「生存のためのコロナ対策ネットワーク」という団体が提案していたが,実現していない。コロナ禍が激甚災害とは異なるということだろう。しかし,労働者の生活支援としては,この方が整合性があり,手続きも簡素であったかもしれない。

 今後の政策改善に向けては,企業による休業手当支給とその政府による補填という方式の限界について注意しながら,進めるべきだろう。


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