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2021年2月1日月曜日

給与デジタル払いの意味するものは,銀行業界内部における集中と,電子マネー業者への情報の移動である

 「 給与デジタル払い21年春解禁、銀行口座介さず 政府方針【イブニングスクープ】」『日本経済新聞』2021年1月27日。給与をスマホの支払アプリに振り込めるという話。労働法上の問題など(特定のアプリの仕様を会社から強制されないかなど)もあるが,とりあえずこの『日経』記事の論評には何かずれたものを感じる。

(引用)「給与の支払いが資金移動業者にうつれば、銀行のビジネスモデルが揺らぐとの見方がある。たとえば新卒社員は入社時に銀行口座を作り、そのまま利用し続ける人も少なくない。銀行口座を作らず、デジタルマネー支払いを選ぶ人が増えれば、銀行の顧客基盤が縮小する」。

 これは,「ある特定の銀行にとって」「顧客基盤が縮小する」という意味では正しい。たとえばある地方の企業が,給与振り込みをメイン取引銀行の地方銀行である七夕銀行を通していたのをやめ,大手資金移動業者(電子マネー業者)のX Payを使うようになったとする。これにより,七夕銀行(仮名)が給与振込口座を獲得できなくなるということはありうる。

 しかし,「銀行全体にとって」「顧客基盤が縮小する」かどうかは要検討である。実は,預金が縮小することはない。企業Aが給与をメイン取引銀行だった七夕銀行の口座振り込みからX Pay支払いに変えるということは,企業AがX Payに法人アカウントを持ち,X Payに給与を振り込むということだ。このとき,給与のお金は見かけ上,企業Aの七夕銀行口座→企業AのX Pay口座→従業員のX Pay口座と動き,銀行預金が流出したように見えるが,その背後では企業Aの七夕銀行口座→X Pay社の取引銀行(ビッグ銀行とする)口座と移動している。なので,銀行預金の総量は何ら減少していない。ただし,七夕銀行の預金は縮小し,X Pay社の取引銀行,おそらくは大手都市銀行であるビッグ銀行の預金は拡大している。そして,こうした取引を繰り返すならば,やがて企業Aは給与支払い分のお金は普段からX Payに置いておこうという考えるようになり,メインの取引銀行をビッグ銀行に変えた方がいいと思うかもしれない。

 そしてもうひとつ,従業員たちの取引情報は誰が把握するかという問題がある。従来は,銀行口座を通して七夕銀行が把握してきた。これが,七夕銀行であれビッグ銀行であれ銀行には把握できなくなり,かわって資金移動業者であるX Pay社に把握されるようになるのである。

 つまりここで起こるのは,まず,地方の中小規模銀行が預金を失い,大手資金移動業者が口座を置いている大手銀行が預金を獲得するということであり,やがて金融取引全般が大手銀行に集中するということである。そして,銀行預金の総量は減っていないにもかかわらず,小口客の取引情報を握るのが銀行から大手の資金移動業者に変化するのである。

 預金は銀行から流出しないが銀行業界内部で集中する。情報は銀行業界から資金移動業界に移動する。このように見通すべきではないか。


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