日本感染症学会と日本環境感染学会の声明。4月2日付の声明を前者は4月16日付,後者は15日付の広報で公開している。そしてヤフーニュースで本日17日に流れている。
しかし,ほんとうにこれが16日現在の両学会の方針なのだろうか。非常な不安を持つのでコメントする。
1.現状とずれていること3点
まず,現時点で起こっていることとずれていることが2点ある。
(1)PCR検査については,そもそも不用意な文言がある。「PCR 検査の原則適応は、「入院治療の必要な肺炎患者で、ウイルス性肺炎を強く疑う症例」とするというのは,不正確ではないか。正確には1)重症者を同定する場合の他に,2)クラスター対策の場合も行っており,柱は一つでなく二つである。後者の場合,クラスターを早期発見し,感染者を早期隔離するために,無症状の濃厚接触者も検査する。現に,仙台市では現在,保育園や英会話教室でのクラスターを追跡するために無症状者も多数検査して,実際に昨日(4/16)も感染者を発見している。両学会は専門家集団なのに,なぜこんな誤解を招く,実際と異なることを書くのか。
(2)最近生じている問題は,医師がPCR検査を求めても十分に話されないという問題であり,PCR検査をしてもらっていない肺炎症状の患者が,病院で救急搬送を拒否されるという問題である。これらの問題は,医師が,患者が新型コロナウイルス感染者かどうかわからないままに,診察・治療をしなければならない状況を意味している。医師・病院は院内感染のリスクにおびえながら患者を診なければならないし,院内感染を避けようとして,コロナかと疑った患者の搬送を拒むという選択肢をとることがある。
医師の立場から見ればそれは合理的だが,この場合の患者の置かれた立場は極度に理不尽である。PCR検査をしてもらえないというのは,保健所という公的機関から「コロナではないでしょう」と言われるに等しいことである。なのに,病院は「コロナかもしれない」というので救急搬送を拒否される。このようなあからさまな矛盾した扱いを,たとえコロナでないかもしれなくても現に肺炎で苦しんでいる患者が突き付けられているのだ。こうしたことが報道されて,肺炎や風邪症状のある人,いつ自分もそうならないかとおびえる人々の間に不安が広がっている。入院が必要なほどの肺炎になっても拒否されるという不安だ。これは,理屈上,説明が立たないことなので改善しなければ不満は爆発する。両学会の声明には,PCR検査をめぐるこうした矛盾への考慮がない。
(1)は不可解として,両学会は,この間次々と明らかになっている(2)の事態をどう考えているのだろうか。4月2日の声明では明らかに対応できていないことと私は思う。なのに,いまになってこの声明を周知しようとするのはどういうことだろうか。無神経に過ぎるのではないか。
2.社会的問題の忘却
さらに大事なことは,医学的にのみ社会全体のことを考えれば,重症者に医療資源を集中するのは正しいかもしれないけれど,社会の側から民主主義社会であることを考えれば,風邪症状がある人を含む,感染不安におびえる人が大多数であることを忘れてはならないということだ。
重症者に医療資源を集中するという両学会の声明は,医学的には正しいかもしれない。しかし,社会的には,軽症者と感染不安におびえる多数の人にとっては,この声明を読んだら「なにもしてもらえない」という社会不安が募るばかりである。以前から書いているが,感染不安におびえる人の不安,不満の対象は「なにもしてもらえない」ことに対してなのである。そのはけ口として「PCR検査をしてくれ」と要求しているのだ。検査で陽性となれば,少なくとも患者としてケアしてもらえると思うからだ。これは,医学的に不正確であっても社会的にありうる心理状態なのであって,頭から拒否しては解決しないものだ。
この両学会のような観点を,そのままむき出しで社会へのメッセージとすればいかに医学的に正しくても多数の怒りを買うだけだ。いま必要なのは,医学的に正しい見地を守ることとともに,社会的観点から,感染不安におびえる人に政府や医療・保健機関が「大丈夫です。助けますよ」というメッセージと具体的措置を提示することでなければならない。両方が必要だ。後者とは,つまりPCR検査を拒否されて病院でも搬送拒否にあうという矛盾をなくすることであり,専用施設での隔離生活や自宅療養が不安なくできるように支援することだ。
※当初コメントにあった1の(3)を削除しました。声明内では,医療機関という範囲にも読めるものの,「軽症例を受け入れる施設の認定」にも触れてはいるからです。
「PCR検査、軽症者に推奨せず―新型コロナ 感染2学会「考え方」まとめる」Yahoo!JAPANニュース,元記事はJIJI.COM,2020年4月17日。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200417-00010000-jij-sctch&p=1
日本感染症学会。16日のお知らせに2日の声明を掲載している。
http://www.kansensho.or.jp/
日本感染環境学会。15日のお知らせに2日の声明を掲載している。
http://www.kankyokansen.org/
川端望のブログです。経済,経営,社会全般についてのノートを発信します。専攻は産業発展論。研究対象はアジアの鉄鋼業を中心としています。学部向け講義は日本経済を担当。唐突に,特撮映画・ドラマやアニメについて書くこともあります。
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