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2020年4月4日土曜日

所得が減少した人に30万円給付策の矛盾:給付は緊急に必要だが,所得はもう数か月してから落ち込むおそれがある

この現金給付策が報じられている通りの内容ならば,不公平感を招くので根本的に改善した方がいい。

 現金給付の良いところは,様々な事情で困難に陥っている人々を,事情の細かなところ,つまり生活がいつ,どうして苦しくなったかを問わずに一律にすべての個人を救済できるところだ。この政策はその効果を大きくそいでいる。大きなところで一つだけ述べる。

 それは,給付が緊急に求められるのに,所得の減少を早期に確認しなければならないために,大きな不公平が生じることだ。給付を緊急に実現するためには,所得減少をある時点からある時点まで,例えば3月までとか4月までという時点で測らねばならない。しかし,このコロナ危機は長く続くものと予想されるので,所得減少がいつやってくるかは人によりさまざまである。例えば5月給付のために,4月までに所得が減少した人を対象としたとする。しかし,5月に人々が手続きをしているまさにその頃,急激な所得減がやってきて苦しむ人々がたくさん出ると思う。その時に生じる不公平感は半端ないものになる。

 雇用と所得の減退はまだまったくピークではなく,これからやってくるものだ。なぜなら,遅かれ早かれ緊急事態宣言が出される可能性は高いし,仮に出されなくても,外出自粛要請,したがって営業の停止は,もっともっと広がり,強まらざるを得ないからだ。その経済的影響は大きい。井上寛康・戸堂康之両教授の試算によれば,東京23区の生活必需産業以外の経済活動が1か月すべてストップすると,所得の減少は東京で9.3兆円,東京以外で18.5兆円,合計27.8兆円でGDP比5.25%に及ぶ。所得減が様々なタイミングで様々な人々に襲い掛かるだろう。

 だから,3月とか4月までの所得減少で給付対象を決めると,その直後からはもう実態とずれがひどくなり,人々の不公平感と不満がかえって高まる。さりとて,基準点を遅くして2020年度前半期に所得が減少した世帯などと考えていたら,まったく緊急策ではなくなってしまう。

 この点を急速に是正する必要があると,私は考える。全個人(単位は個人の方がよい)に一律給付するか,一律給付の上で事後に累進課税の所得税率を調整して高所得者から返してもらう方式か,どうしてもそれが政治的に通らないならば所得水準による制限だけつけて一律給付した方がよいと思う。

「新型コロナ 現金給付1世帯30万円 一定水準まで所得減少の世帯」NHK NEWS WEB,2020年4月3日。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200403/k10012366431000.html

安達裕哉「スパコンが示した「東京封鎖(ロックダウン)」の結果に、愕然とした。」Books&Apps,2020年4月2日(井上・戸堂教授の試算結果が紹介されている)。
https://blog.tinect.jp/?p=64402

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