東北大学を含む七国立大学と国立情報学研究所は,3月30日,文化庁および授業目的公衆送信補償金等管理協会に対して,「授業目的公衆送信補償金制度」を4月から正規に利用できるようにすることを訴える要請を行った。
遠隔授業には,実は著作権の壁がある。授業の教材として他人の作品をコピーしたり配布したりすることは,通常の授業ではある範囲で認められているが,遠隔授業だと制約は非常に厳しくなる。例えば以下のようになる。ここで「資料」に他人の論文とか他人の作成した図表が使われていると考えて欲しい。
1)オンラインリアルタイムの配信授業で教員が資料を配信しながら講義するのはOK。
2)資料を使ったリアル講義の様子を録画し,事後に学生が視聴するのは不可(!)。
3)資料を使った講義を録画し,事後に学生が視聴するのは不可(!)。
2)3)は,たとえ視聴できるのが受講生に限られていても不可なのだそうだ。不可を可にするには一つ一つの資料について許諾を得なければならない。これでは身動きはならず,遠隔授業など普及するはずがない。
そこで2018年に著作権法が改正され,上記のような著作物利用ではいちいち許諾を得る必要をなくし,かわりに学校が補償金を管理団体にまとめて支払い,管理団体が著作権者に分配するしくみをつくることにした。しかし,この法改正は公布日である2018年5月25日から3年以内に施行されるとなっているものの,まだ施行されていない。新型コロナウイルス感染症流行の下で,否応なく遠隔授業に移行せざるを得ない状況では,これは大きな障壁となる。急いでこの「授業目的公衆送信補償金制度」を動かしてもらう必要があるのだ。
「新型コロナウイルス感染症の拡大を受けた「授業目的公衆送信補償金制度」の早期施行について」東北大学,2020年4月1日。
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2020/04/news20200401-02-7univ.html
「学校における教育活動と著作権」文化庁長官官房著作権課。これが従来の制度。
https://www.bunka.go.jp/chosakuken/hakase/pdf/gakkou_chosakuken.pdf
川端望のブログです。経済,経営,社会全般についてのノートを発信します。専攻は産業発展論。研究対象はアジアの鉄鋼業を中心としています。学部向け講義は日本経済を担当。唐突に,特撮映画・ドラマやアニメについて書くこともあります。
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