神戸製鋼は5月20日の中期経営計画説明会で,今後加古川製鉄所の高炉2基体制を前提とせず,高炉1基,電炉1基の体制に移行していくことを検討していくと発表した。ただし質疑応答記録によれば高炉巻き替え時期は2030年代後半であり,移行は少し先の話となる。2050年の生産体制についてのイメージはまだないとのこと。
日本製鉄やJFEスチールと比べると,唯一の高炉一貫製鉄所で高炉生産量を半分にするのであるから,神戸製鋼の方針はラディカルな転換ともいえる。しかし,移行時期については,日本製鉄やJFEスチールのそれと比べて保守的とも言える。
日本製鉄は九州製鉄所八幡地区で2030年までに,JFEスチールは西日本製鉄所水島地区で2027年に,それぞれ高炉1基を停止して電炉に移行することを表明している。電炉へ移行する生産の割合は神戸製鋼より低い。しかし,移行時期は神戸製鋼より早い。また神戸製鋼とJFEスチールは高炉巻き替え(内部耐火物等の寿命により,いったん操業を停止して大規模改修をすること)の機会での,いいかえると現在の高炉を1サイクル使い切ってからの移行であるのに対して,日本製鉄はそれ以前の移行だ(八幡地区の高炉は2014年火入れなので2030年はまだ改修必至時期ではない)。
神戸製鋼は,次世代の水素還元製鉄技術については,子会社のMIDREX(本社アメリカ)で着々と進めているという優位性がある。オマーンでの直接還元鉄事業も検討中だ。しかし,国内では漸進路線をとろうということだろう。現在,加古川製鉄所の高炉では,海外から調達したHBI(発熱しやすい直接還元鉄をブリケット状にして輸送可能にしたもの)を装入してCO2排出を抑制する操業法を採用している。これでしばらくはしのぎ,続いて相対的に高級でない製品を電炉製鋼に移行しようというのだろう。しかし,HBI装入高炉から一定のCO2は出続けるので,CO2の排出・貯留・再利用(CCUS)か,別のオフセット手段も必要になるだろう。高炉が残ると,どうしてもCCUSやオフセット手段が必要となり,方策が複雑になってしまう。
神戸製鋼は,水素直接還元鉄の技術開発地体制とプラント建設能力をグループ内に保持している。海外ではもっぱらこちらを活用しようとしている。しかし,現に高炉一貫製鉄所という固定資産と,顧客への高級鋼の継続供給による評判という無形資産を持っている日本国内の生産拠点では,技術のラディカルな転換に踏み切りにくい。このイノベーションのジレンマをどうマネージしていくかが,神戸製鋼の課題である。
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