伝統的・非伝統的金融政策の説明と,その限界「その1」の動画。
2000年代の日本で始まり,アベノミクス=黒田日銀で大々的に展開された非伝統的金融政策には,いくつもおかしい点がある。一つは,金利が下がれば投資が増えるだろうという仮定していることだ。投資は,実質金利と,資本の限界効率との関係によって決まる。そして資本の限界効率には,ケインズが美人投票の比喩で述べたように,集団心理によって左右される不確実性が存在する。端的に言えば,「投資したところで製品が売れそうには思えない」と経営者が悲観しているような経済情勢が長く続くと,既に名目上ゼロにまで下がっている金利を多少引き下げたところで,投資は盛り上がらない。経営者が悲観してしまう理由の方を取り除かねばならないのである。それは将来不安による消費の手控え,そして消費者がそのように行動しているという経営者の認知である。ここを変えることは金融政策ではできない。財政政策,社会政策,産業政策に頼らざるを得ない。
だから1990年代からうわごとのように繰り返された「景気が悪いのはデフレのせいだ」は転倒した議論であった。単純に需要が盛り上がらないから物価が上がらなかったのである。これが根本要因である。
とはいえ,「デフレが悪い」という側面も副次的にはないではなかった。経営者が設備投資よりも,現金の積み上げ,株式投資,せいぜいM&Aによる産業再編(これはマクロ的には投資ではない)に走るのは,その方が利益率が期待できるからであり,そこには物価が上昇しないという環境が作用しているからだ。
しかし,「デフレが悪い」という話がある程度までは正しくても,「だから金融緩和でインフレにすればいい」というリフレーション論は,さらに大きな間違いであった。まず先に需要が盛り上がっている状態ならば,金融緩和でさらなる投資・消費の拡大と物価上昇を促進することはできるだろう。しかし,需要超過がないところで,まず最初に「金融緩和でインフレにする」ことはできないのである。これは第23回のテーマである。
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