Raymond Vernon, “International Investment and International Trade in the Product Cycle, Quarterly Journal of Economics, Vol. 80, May 1966.プロダクト・サイクル論の元祖である。大学院でもう少なくとも7回講義しているのだが,今回は,ヴァーノンがこの論文以前に行っていたニューヨーク大都市圏研究との関係をとりあげた。これは経済地理学者には当たり前のことなのだが,今回ようやくヴァーノン(蝋山正道監訳)『大都市の将来』東京大学出版会,1968年(原著1960年)を併読して論じることができた。
ヴァーノンの理論には,一般的な立地法則がきれいにモデル化されている側面と,実は市場の不完全性を強く指摘している側面という二面性がある。ここでは前者を取り上げる。プロダクト・サイクル論のこの側面は,『大都市の将来』と併読すると理解しやすい。
ヴァーノンは,輸送費,賃金,外部経済などを産業立地を規定する要因とし,どの要因が強く作用するかによって産業や製品を区分する。これは大都市研究でもプロダクト・サイクル論でも同じだ。しかし,違いもある。
大都市圏研究ではこれらによって,同時点での産業の類型をとらえていた。輸送費が重要な産業,賃金コストが重要な産業,外部経済が重要な産業という具合である。しかし,プロダクト・サイクル論では新製品が成熟化し,標準化していくという時間進行によって,立地優位性が移り変わっていくととらえているのだ。
これはプロダクト・サイクル論と雁行形態論の違いにもかかわる。両者は,小島清が自ら整理したように,先進国から見たサイクルと途上国から見たサイクルとして対比されることが多い。しかしもう一つ,「何が変わることでサイクルが進むのか」が異なる。プロダクト・サイクルは製品や工程の設計が標準化することによってサイクルが進む(ドミナント・デザイン論の萌芽)。つまり製品・工程が変わる。一方雁行形態論は,各国で資本と知識の蓄積が進むことによって要素賦存の相対関係が変わることによって雁行が国際的に伝播する。つまり,国の要素賦存が変わるのだ。これが両理論の違いである。
ここまでで確認したいのは,ヴァーノンのプロダクトサイクル論とは何よりも立地論,あるいは立地優位性の理論だということだ。そこから直接的に導けるのは,単純な要素賦存説とは違うものの,ある種の比較優位論であり,したがって貿易論である。直接投資論ではない。プロダクトサイクル論を何よりも直接投資論と捉えるのは適切ではないのだ。
写真の板書は1枚目がプロダクトサイクル論。2枚目が雁行形態論。3枚目は,論文をカフェでばかり読んでいることと,7回読んでも覚えない証拠。
川端望のブログです。経済,経営,社会全般についてのノートを発信します。専攻は産業発展論。研究対象はアジアの鉄鋼業を中心としています。学部向け講義は日本経済を担当。唐突に,特撮映画・ドラマやアニメについて書くこともあります。
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